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七恵の手に引かれて、制服に着替えた部屋に入った。目の前の大きなベッドを見て、あらぬ妄想が頭を支配したがドアのロックが掛かった音で我にかえった。
「鍵かけたよ……」
「……うん」
恥ずかしそうにドアにもたれ掛かっている七恵を抱き寄せた。実は、好きでもない女と抱きあったりした事がない。そういう関係になったのは付き合った女性だけだ。
今まで4人の女性と付き合った──どの人も自分から告白をした。だから、今のこの状況は何処かリアリティがなく、アダルトビデオを見ている感覚に近かった。
「一目惚れかも。あんまりした事ないけど……」
「またまた。高校生すよ」
「うん。犯罪やんな。でも、好きになりかけてる」
「冗談きついっすよ」
七恵の潤んだ瞳から目を逸らした。七恵を抱き寄せた時から妙な罪悪感に支配されていた。彼女の心臓の音が、冗談とは思えないほど強かったからだ。
「好きな人おるん?」
「……」
彩乃の顔が浮かんだ。いや、この部屋に入った時からずっと彩乃がいる。七恵の心臓の音を聞いていなければ、アダルトビデオを見るかのように彼女を抱いていただろうが──。
「……います。でも……」
「でも、何?」
抱き寄せた七恵をほどき、黒いベッドに腰掛けた。大人の女性に、今の心境やウジウジした自分自身について聞いてもらいたかった。自分に好意を持ってくれている女性に対してかなりデリカシーにかけるが、またとない機会だ。
「遊び人ではない事ははっきり分かった。でもさ……」
彼女所謂、この先、恋愛だけではなく色んな事に決断しないといけない場面があると──。瞬時に選択しないといけない時もあるし、自分の意向に削ぐわない事でも飲み込まないといけないと時もある。僕が立ち止まっている間、相手の時間も同じように止まってくれる訳ではないと説教まじりに言われた。
「……確かに。時間は待ってくれませんし」
「でもさ、本当になるようにしかならないよ。ごめんね。水着姿で全く説得力ないかもやけど」
「何か恥ずかしそうですね」
「君のせいで酔いも覚めたし、テンション下がりまくりやし」
「ごっごめんなさい」