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この部屋に招かれてから1時間が過ぎようとしている。壁にかけられたいかにも舶来ものの白い時計を何度も見ていた。
別に早く帰りたい訳じゃない──この異様な空間であれ、流れる時間はいつもと変わりはしない。楽しい時間は一瞬で過ぎるというが、感覚の問題であって実際は等しく時は刻まれている。楽しくても、悲しくても、寂しい夜でも。
何事にも動じない自分になりたい──あの春先の失恋期間のような思いを二度と繰り返したくはないから。
香織はワインセラーからワインを取り出してコルクを抜いていた。“スポンッ”と良い音が部屋に響きわたり、テーブルに置かれたグラスに注がれた。
「君達も飲む?」
「飲みますっ!」
江戸やんは左手を大きく挙げていた。右腕は優香に相変わらず支配されている。
「近ちゃんは?」
「やめておくよ。お酒飲めないし。カルアミルクなら飲める」
レプはワインが並々入ったグラスを目の前に持ってきてくれたが、缶ビール半分も飲めないのに大人の味の代表みたいなそれを飲めるはずがない──。
「分かった。お姉さんが口移しで飲ませてあげる」
七恵はグラスに入ったワインを半分ほど飲み干し、僕にキスをした。生暖かい液体が、一瞬でのどを通り、口いっぱいに芳潤な香りが充満した。七恵は僕の口周りに少し付いたワインを指でなぞった。
『動じない。不動心だ』
僕は自分に言いかせた。急にそんなふうに思った訳ではない。この七恵という女性に何かを感じたからだろう。所謂、自己防衛というやつだ。8つも歳上だからどうしたというのだ。僕は変なスイッチが入ってしまい、僅かに残っていたワインを口の中に含み、同じように七恵にキスをした。
「おっと! 近ちゃん、攻撃的やな」
向かいにいるレプがタバコを消して香織とキスをし始めた。江戸やんも優香の手を解き、キスをしている。どうやら僕が導火線に火を付けたみたいだ。そこまで本気ではなく、動じない自分を自分にアピールしたかっただけだったのだが、完全に乱行パーティーになってしまった。
「近本君、集中したいから、向こうの部屋行こう」