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「勇介、何飲む?」
「お前らジュースか?」
香織は、レプを『勇介』と呼んでいる──僕はレプの下の名前を知らなかった。高1で知り合った時からずっと『レプ』と呼んでいたから、かなりの違和感を覚えた。
「レプ、勇介って名前なんや。知らんかった」
「知らんかったんかいっ! 友達歴3年やぞ」
「あかん。この子めっちゃおもろいわ」
七恵は僕の腕におでこをつけて爆笑している。一体何がそんなに面白いのか分からなかった。僕としては、これっぽっちも笑かしてやろうという気がないからだ。
「近ちゃん、俺の名前は?」
「江戸やん」
「いや、それあだ名だから。名前だよ」
「……」
「ダメだ。マジで知らないみたいだよ」
女性陣が、今年1ぐらいの勢いで笑っている。僕は逆に問いたかった。友達の名前を正確に言えるのかどうかを。僕は隣の七恵に聞いた。
「じゃあ、友達の名前とか言える?」
「言えるやろ。言えないとかあり得ないでしょ」
「有り得ない事なんや」
全員に確かめたが、友達の名前を知らなかったのは僕だけだった。意識した事がないと言ったら、そういう問題でもないらしい。僕はレプと江戸やんにこのたびの事について謝る事にした。
「申し訳ない。レプ、江戸やん」
「いや、真面目かっ!」
横にいる七恵に思いっきりツッコまれた。ボケたつもりは一切ないのに、何故か爆笑の渦が巻き起こっていた。どうやら僕は“天然”というやつらしい。もちろんそういう人種の存在は知っていたし、色んな人に言われてきたが、今日初めて自分が天然であるという事を自覚した。
「男前の天然てかなりレアやな。七恵、めっちゃタイプちゃうのん?」
「あんたもあっさりタイプの梅野君がめっちゃタイプのくせに」
江戸やんは僕の隣に座っていて、その隣に優香が江戸やんの腕に胸を押しつけるようにして密着していた。今まで生きてきてこんな状況に遭遇するのはもちろん初めてであり、天にも登るような感覚がずっと続いている。それは、きっと七恵の胸の鼓動が僕の二の腕から心臓に伝わり、抱えているモヤモヤを何処か遠くに追いやってくれてくれているからだと勝手に解釈していた。