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「レプ、俺いけるぜ。制服って今着ているのでいいの?」
「マジかっ! お前、安奈とか大丈夫か?」
「大丈夫も何も付き合ってないし、頼まれたんだろ?」
「ありがとう! 助かるよ」
断ると思っていた江戸やんが爽やかすぎる笑顔で承諾するのを見て、またまた“しょぼい自分”スキルが発動した。少なくとも他人の動向を見て決断するような男ではなかった。身体は大丈夫だが、心が瀕死状態であるのは確かだ。こんな男は誰にも相手にされないだろうし、ましてや彩乃とどうこうなんて無理に決まっている。
「近ちゃんも行くだろ? 当然」
江戸やんが白い歯を見せて聞いてきた──僕は大袈裟に首を縦に振り、いつも通りの僕ですよと全力でアピールした。
「近ちゃんありがとう。ていうか、何かおかしいな。元気ないやんけ」
「そっそんな事はない。僕の事はモハメド君が1番知っている」
「モハメドって誰だんねん。初めてのエリアの名前だんな」
みんな爆笑していたが、レプの目だけは誤魔化せなかった。僕はタバコに火を付けて平静を装ったが、フイルターの方に着火してしまい、直ぐに灰皿の縁にある窪みで火を消した。
「どないしはったんでっか? 折角買ってあげたタバコを勿体ない」
「陳君、すでに僕のものだから投げ捨ててもいいんだよ」
「かれこれ100ぐらいの名前が出ましたな。いやいや、投げちゃいけまへん」
「とりあえず、江戸やんと近ちゃん頼むわ」
久々である──最初はこの3人でダベっていた。休み時間にいつも寝ていた江戸やんに、タバコを吸いに誘った事が軽く1年ぐらい前のように感じた。実際はまだ4か月ぐらいしか経っていない。
僕はふと前の彼女の事を思い出した。9月5日にまだお互いが好きなら、約束の場所で会おうと言われた事──。本当に随分昔のように思える。まるで小学生の頃、親と一緒に縁日に行った時のような、そんな遠い日の思い出のようだった。夏休みが終わればあっという間にその日になる。今の僕は彩乃が好きだし、彼女も新しい男が出来ている訳だからそんな約束は無効である。何故なら、お互いがもうお互いを想っていないのだから。