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マスターに歳を聞いた事はないけど、大体50歳ぐらいか。独身である事は聞いたような記憶はある。それだけ生きていると愛の量だの質だの小難しい事も理解出来るようになるのか……。
「いずれにしても、そんな試すような事をする女は俺は無しやな」
レプの言う通りだ。言う通りだけれど、それが自分に降りかかってきている現実。さらには、それが確定じゃない。ひょっとしたら、他に好きな人が出来て、僕を傷つけないように嘘をついたのかもしれない。レプがそんな女は嫌だと言ったが、心の中でどうかそうであってくれと祈るような思いでいる自分がいた。
「大人になれば糸井君も女心が分かる時がくるよ」
「マスターは分かるん? 俺には到底理解できん」
「分からん」
「分からんのんかいっ!」
他人事だと思って、漫才のような会話を繰り広げている事に怒りを覚えたが、少しウケた。笑った後、何故だか少し楽になった。この2日間は笑うなんて事はなかった。ただただ、倍速で進んでくれと願うだけだったから──。
「それやっ! 近ちゃん、笑っていこう! 『笑う門にはなんとやら』って言うやんけ」
「いやいや、そこまで出て全部出ない事のほうが奇跡」
僕のツッコミで、レプとマスターは爆笑していた。その姿を見て、また少し楽になった。こんな感じは初めてで、年の功であるマスターに聞いてみた。
「近本君、良い発見だよ。それは」
「良い事なんですか?」
「説明は難しいけどね」
「もっと楽になりたいんです。マスター、教えて!」
マスター曰く、もっと良い方法があると教えてくれた。少し理解するのに時間がかかったが、要するに、周りを見渡せばいいとの事。自分の事で飽和状態になっている問題をさておき、視野を広くしろと言われた。例えば、コンビニのレジ前に置かれている募金箱に、お金を入れる事から始めてみるのもいいかもしれないとアドバイスをくれた。確かに、他人の事など考えた事はなかったかもしれない。募金箱の中身は気になっても、募金した事などなかった。お金を入れれば楽になるような話しではない事は分かるが、とりあえず、コンビニで買い物して募金箱にお金を入れようと思った。