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「どないでっか? 50回は見てたんちゃいまっか?」
授業が終わり、たてが僕の席に来た。結果発表が待ち遠しい感じだ──。
「とりあえず、君には言いにくいんだがゼロだったよ」
「ゼロ?」
ゼロという数字はとても残酷である。仮に1億をかけてもゼロになってしまうのだから。
「ゼロだよ。ずっと寝てたぜ」
「嘘でっしゃろ? 近ちゃんはんが寝てたんちゃいまっか?」
とりあえずブチ切れそうになったが我慢した。この3年間、現社の時間一睡もしなかったのは初めてだった。ちゃんと交通量調査をしたのにこの言い草だ。彼の事を反面教師とし、今後の人生に役立てよう。
「たてよ、君は何故窓の外ばかりを見ていたのかね?」
「いや、ルカが見てると思って、カッコつけてましてん」
ある意味凄まじい集中力である。一度僕の方を向き、OKサインをしたが、それ以外は授業中ずっとイキっていた事になる。
『イキる』──カッコをつける、調子に乗る等。多分、関西弁だろうと思う。知らんけど。
「とにかくゼロだから。帰りにタバコ買ってもらうぜ」
「あきまへん。納得いきまへん」
”納得いかない“の意味が分からない──その台詞をそっくりそのまま返したいぐらいだ。男と男の約束を破る奴には鉄拳制裁しかない。
「男と男の約束だろ?」
「タバコは買いまんがな。ただ、納得がいきまへんねや。助けておくんはれ」
たては両手を擦り合わせて頼み込んできたが、何をどうしていいか分からない。
「ていうかさ、仮に50回見ていたら、君の事が好きという事になるのかね?」
「そらそうでっしゃろ。50回も見まっか?」
彩乃の顔が浮かんだ。50回どころか何万回でも見ていたい。ていうか、抱きしめたいし、抱きたい。今すぐに──。
「で、どうすれば、納得いくのかね?」
「近ちゃんはんお得意のストレートに聞くというのはどうでっしゃろ?」
ストレートに聞くとはどう言う事なのか──まさかとは思うが、この僕がルカにたてをどう思っているのかを聞きに行けと言っているんだろうか。タバコ一箱で。
「ワンカートンなら聞いてやってもいい」
「……」
「嫌なら、他をあたりたまえ」
「わっわかりましたがな。ワンカートン持ってけ泥棒!」