たてと遊ぼう
期末テスト前の短縮授業期間に入った。昼まで学校で勉強し、残りは家でやれという事なのか。僕は、この期間に家で勉強をした事がない。真面目な奴はやっているだろうが、このたてだけは絶対にやっていないと言い切れる。
「近ちゃんはんに一生のお願いがありますねん」
「君、この間一生のお願いを使ったとこじゃないか?」
「ほんまでっか? 記憶にございません」
「政治家かっ!」
3限目の休み時間に彼に話しかけられた──何だか神妙な面持ちだ。多分、演技だろうが。
「近ちゃんはんの席からルカが良く見えまっしゃろ?」
“まっしゃろ”って、かなりのご年配の方からしか聞いた事がない。
「見えるか? 見た事ないから分からん」
「何でっ? あんなに可愛いルカを見ないとか考えられまへんわ」
彼の美的センスは私服にも表れている。だが、それも人それぞれである。僕の感覚とは違うだけであって、彼はそれらを本当に良いと思っているはずだから──。だから、彼の個性を否定するような言動は極力避けようと言い聞かせた。
「で、この僕にどうして欲しいのかね」
「社長風の喋り方になってる時は、近ちゃんはんめんどくさがってる時」
ご名答である。良く分かっているくせに、下らない事ばかりを頼んでくるのは何故なんだ。
「君、東京でもこの間の食堂合コンでも繁盛してたやん。ルカとかどうでもよろしいやん」
たては右手人差し指を唇に当てて、『チッチ』と言った。ぶん殴ってやろうか──。
「ほんまに好きな女には何も出来ないもんですわ。アンダースタン?」
マジでぶっ殺してやろうと思ったが、一瞬彩乃の視線を感じた。
「ん? どないしはったんでっか?」
「いや、ルカを見ただけや」
1番後ろの席で、安奈とルカ、そして彩乃が喋っていた。江戸やんが寝ている横で起きろと言わんばかりに、普通の話しを必死に声を張っている安奈が少しだけ可愛く見えた。
「普通すぎてダメだね」
「いきなりどういう意味でっか?」
「普通の話しをただ大きな声で言ってるって面白いかい?」
「笑いを求めてるなら、どんずべりでんな」
「そういう事だよ」
「いや、急に意味が分かりまへんがな。それよりも頼みを聞いておくんはれ」