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「……」
「いやいや、気にしないでね。何か悪い事したかなって思ってたから」
ある意味皮肉な話しだ──これ以上好きにならない為に彼女を避けていたが、結局とんでもなく距離が縮まった気がする。彼女の屈託のない笑顔を前に、避けていた理由を話しそうになったが何とか踏ん張った。だが、彼女をヤキモキさせたのは事実だし、身体の調子までおかしくしてしまった事に対しては謝らければいけない。
「申し訳ない。何かそれしか言えない……」
「何で謝るん? 何も悪くないやん」
「いや、ヘタレなだけでな。色々と」
「意味分からんけど……。そうそう、髪型めっちゃ似合ってるね!」
僕は短くなった自分の頭を撫でた。
「そう? 東京で江戸やんと切ってん。断髪式やな。過去を断ち切ろう的な」
「安奈が梅野君の話しばっかりするよ。髪型変えて調子乗ってるとか」
相変わらず分かりやすい女だ──好きなら好きと言えばいいのにと思ったが、僅か1秒で“お前もな“と自分でツッコミを入れた。そんなに簡単じゃないんだろう。きっと安奈も辛い思いをまだ引きずっているからこその言動だろうし。
「近本君もファミレスで話してくれた前の彼女は断ち切れたん?」
「そうやな。ていうか、彼氏いてるしな。潮時でしょう」
言葉にするにも悍しいワードを、スラスラと言えるのは乗り越えたという事なのか───。
「彩乃は? 元彼の事」
「良い思い出かな。完全に過去になってるわ」
彩乃はベッドに座り、伸ばした足をくの字に曲げた。
「あっ! パンツ見えた?」
「いっいや、何も見てません」
思いっきりピンクのパンツが見えたが、嘘をついた。一瞬、このまま押し倒しても何も文句を言われなさそうな感じがした。
「押し倒すぞ」
「近本君はそんなんしない人やもんね」
思いっきりする人なんだが、彩乃には“真面目君”で通っているんだろう。
「でも、お腹治ってよかった。ほんまに怖かったよ」
「近本君、真っ青やった。痛かったけどそれだけは覚えてる」
「とにかく今日は帰った方がええぞ。保健室の先生には言うとくしな」
彩乃は首を大きく横に振った。その少し甘えたような顔が、堪らなく愛しく思えた。