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カーテンを開けると、お腹を抑えて震えている彩乃がいた。僕は血の気が引いていくのを感じた。誰かのこういう場面に遭遇した事がなかったし、自分の好きな女が目の前で苦しんでいる。僕は咄嗟に彩乃の腕を掴んだ。
「どっどうしたらいい?」
「くっ薬が……」
「どこにあるん?」
彩乃が指差した方にの紺色のスクールバッグがあった。
「この中にあるんやな」
「うっうん」
チャックを開き、中を覗いた。中にはペットボトルとお医者さんでもらったであろう白い袋があった。僕はそれを取り出した。
「何も書いてないぞ」
白い袋には処方箋が書かれていなかった。僕は慌てて袋の中から薬を取り出した。
「1種類だけやな。何錠?」
彩乃は震える声で2錠と答えた。僕は彩乃に薬を渡したが、ペットボトルの中身はミルクティーだ。
「ミルクティーでは薬飲んだらあかんからな。ちょっと待ってて! 直ぐ戻るから」
僕は全速力で食堂へ向かった。仲の良いおばちゃんがいるし、白湯ぐらい出してくれるだろう。
閑散とした食堂の中に入り、丁度テーブルを拭いていた仲の良いおばちゃんに頼んだ。
「白湯? かまへんけどどうするん?」
「薬飲まさないと!」
「わかった! ちょっと待っとき!」
おばちゃんは厨房へ入って行った。ほんの30秒ぐらいだったか、僕にはもっと長く感じた。
おばちゃんから白い紙コップを受け取り、急いで保健室に戻った。
「白湯もらってきたで!」
「あっありがとう」
僕は彩乃を起こして薬を飲ませた。
「でへへ」
「えっ! いやいや、どした? 変な笑い方して」
「分からんけど、笑けてしまった」
「お腹は大丈夫?」
「うん。近本君が、白湯取りに行ってくれてる間にめっちゃ楽になってん」
「何やそれ」
僕は緊張の糸が途切れたのか、ベッドの横にあった椅子に倒れこむように座った。
「ごめん。でも、近本君と久々に喋ったらほんまに治ってん。嘘みたい」
学校ではもともと喋ったりしないが、アイコンタクトすら拒否していた。その事を凄く気にしていたらしく、落ち込んでいたらしい。