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保健室は一階にある。休み時間だから、渡り廊下は生徒でごった返していた。僕はそこを縫うように歩き、保健室に着いた。
「……」
保健室の中に入ったが先生がいない。僕は白いカーテンで仕切られているベッドに勝手に入った。
「誰やっ!」
隣のベッドから何か聞こえた。あまり品のよろしくない聞き覚えのある声だ。
「何やっ! 貴様の相手を出来るほど元気ではない」
青柳ルカだ──カーテンを開けて、品のよろしくない顔を覗かせていた。
「うわっ! 近本や。あんた、サボりやろっ!」
僕は、“あんた”と呼ばれる事が嫌いだ。ましてや、藤川の子飼いに言われたくはない。僕は、無礼には無礼で返す事にした。
「藤川の金魚の糞が何調子乗ってんねや? いてまうど! お前」
「はい? 意味分からん。彩乃、近本やわ。ゆっくり休まれへんで」
「彩乃て何や?」
「お腹が痛くて寝てるんや。ちょっかいかけたら殺すで」
「はいはい。こっちもしんどいから構うな」
僕はカーテンを勢いよく閉めてルカを追い払った。
「ほならそろそろ教室戻るから。ヤバかったら早退した方がいいで」
「……うん」
カーテンの向こうから今にも消えてしまいそうな彩乃の声が聞こえた。ルカの手前、普段通りに対応したが、心配で仕方ない。かなり調子が悪いように感じたが、この状況で僕が出来る事は何もない。
「近本、ほんまに彩乃にちょっかいかけなや」
ルカが保健室から出ていった。ドアの閉め方も、大きな音を立てて品のない感じだ。
「……ごめんね。近本君……」
全く悪くない彩乃が僕に謝ってきた。僕は必死に出来る事を考えたが思いつかない。
「いや、彩乃は悪くないやん。お腹痛いの大丈夫か?」
「……少し寝たら大丈夫」
「わかった。ゆっくり寝て」
平静を装ったが、内心は張り裂けそうなほど心配だった。カーテン越しとはいえ、久々に彩乃と話しをした。この間、ファミレスでご飯を食べた時以来か──。
「……んっん…ごっごめん、近本君」
白い天井を見ながら彩乃とファミレスデートの事を思い出していたら、ただ事ではないトーンで僕に話しかけてきた。
「どっどうした?」
「おっお腹痛い……」
「カーテン開けるぞ」
「……うん」
僕は勢いよくカーテンを開けた。