進む一歩、逃げる一歩
期末テストが近づいてきた。勉強の『ベ』の字もしていない。辛うじて、自分のクラスと名前ぐらいは書けるだろう。そんな事よりも、もっと重要な事が頭の中を支配していた。それは東京での事だ。
ハチ公前で逆ナンされた件──。
あれから直ぐにレプ達と合流した。彼等はあまりの睡魔にファーストフード店で寝てしまっていたらしい。ポケベルの呼び出しでハチ公前に来たが、我々がナンパに成功してるのを見て何故かキレていた。彼等は、傷心の江戸やんをどう慰めるか爆睡する寸前まで考えていたそうだ。それが蓋を開けたら、既に極上の女達と良い感じになっているもんだから、腹が立ったんだろう。だが、僅か3秒で我々の中に割って入ってきた。そして、5対3になり、人数的にも足りないからという事で、東京娘は追加で友達を呼んでくれた。
彼女達の地元である、高田馬場という所に移動して、10人で5時間ほどカラオケボックスにいた。東京まで来て、大阪にもあるカラオケチェーン店にずっといた我々って一体──。
だが、今まで行ったカラオケで1番盛り上がった。東京娘に服装をいじられるたて、同い年の女に全く興味のないレプは、関東弁がもの珍しかったのか、後から合流した2人のうちの可愛い方と良い感じになり、リー君は、自身の特攻服姿の写真を見せてかなりの人気者だった。
問題はこの僕だ──江戸やんは本当に吹っ切った様子で、ロックオンした娘と終始仲良くしていたが、僕は、気に入ってくれている茶髪ショートの娘がどうしても彩乃に見えてしまい、テンションが地まで落ちていた。その事をみんなに悟られぬように、空元気全開で何とか5時間という長丁場を乗り切った。つまり、何が問題なのかというと、彩乃の事で頭が一杯という事だ。その事を、他の女と関わる事でより強く実感してしまった事。そして、残念なことに僕史上最強クラスの臆病風が吹き抜けていた。
朝、教室に入った時から気になっていた。彩乃の姿が見えないのだ。今日は休みなのかどうかも分からない。クラスメイトに聞くのも不自然だし、ずっと悶々としていた。1限目が終わり、考え過ぎて気分が悪くなったから保健室に向かった。期末テスト前だというのにまるでやる気がない。最近では、彩乃と目を合わすのも怖くて地味に避けていた。向こうはおそらく気付いてはいないだろうが。