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「藤川安奈や」
「えっ! それはないよ。だって、目の敵にされてんだぜ」
僕はリー君に聞いた話しをした。藤川の元彼の事だ。
「いやいや、それなら尚更嫌だな。前の彼に似てるって微妙だよ。嬉しくもないし、リアクション取りにくくね?」
「嫌やな。代わりみたいで」
「それな」
リー君は、あの時元彼の髪の毛は短いとか言っていた事を思い出した。だったら、今の江戸やんは藤川の元彼そのものと言う事になる。
「俺は大人しい女が好きなんだよ。うるさい女はパス。顔はめちゃくちゃ可愛いけど……」
江戸やんの彼女、正確には元彼女だが、写真で見るより可愛いかった。おそらく、江戸やんはとんでもない面食いなんだろう。藤川安奈は、確かに高飛車でうるさい女だが顔は特級品である。性格さえ妥協すれば、あんな良い女はそうはいない。
30分ほど待って、つけ麺を食べた。生まれて初めてのそれは、カルチャーショックをうけるほど美味かった。江戸やんは大盛り、僕は普通盛りをペロリと平らげて、少し早いけど渋谷へ向かった。
渋谷ハチ公前──テレビで見た事がある景色だ。実際は少し狭く感じた。ただ、土曜日なのもあってか、人が半端なく行き交っている。大阪も繁華街は賑わっているがそんなレベルではない。
「江戸やん、人がめっちゃ多いな」
「そうか? こんなもんじゃね」
渋谷に着いたらレプのポケベルを鳴らす事になっていた。
「そこの公衆電話でかけてくるよ。ちょっと待ってて」
「おっおう」
目と鼻の先に電話ボックスが見える。江戸やんはタバコをふかしながら歩いて行った。その様子をハチ公の後ろで座っていた女子3人組が目で追っていて、僕にも聞こえるぐらい大きな声で話していた。
「あの人、かなりカッコよくない?」
「私はあの背の低い方がいい」
そう言った女子と目が合った。完全に僕の事だろう。これは所謂逆ナンというやつではないか。僕は思わず目を逸らしてしまった。明らかに歳上である。3人ともかなり洗練された都会の女性って感じだ。20歳ぐらいだろうか──。
「とりあえず、鳴らして来たよ。ここで待つしかないな」
江戸やんが爽やかな笑顔で帰ったきた。僕は、江戸やんの耳元でハチ公の後ろにいる女子について話した。