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僕は感情が先行してしまって、要点を掻い摘んでレプに説明する事が出来なかった。ちょっと引き気味のレプの表情が情けない自分をより情けなくさせた。ただ女にフラれた話しだ。星の数ほど存在する。世の中にはもっと綺麗でもっと良い女はいるはずなのに、身体の一部をもぎ取られたようなこの痛みは、いつになれば治るんだろう。
「……近ちゃん、次行こう」
「次とは? 」
「いや、俺達もあっという間に卒業やろ?」
「……多分。あっという間やろうな」
「近ちゃんが、もう二度と彼女が出来ないぐらい不細工やったら話しは別やけど」
彼は面倒くさくて言っている訳ではない事は分かっている。『次行こう』という台詞が、僕の心臓を貫いていった。他人が聞いても、それはもう終わった恋なんだと。僕は、この先違う誰かを愛せるかどうか不安だった。こんなに誰かを愛おしく思えたのは初めてだったし、もう一生恋など出来ないんじゃないかと思っていた。
「この間連れてきてくれた娘の話し? 」
マスターが、カウンターの向こうから話しかけてきた。理科の実験で使うようなガラスのビーカーが、カウンターに並んである。
「むちゃくちゃ綺麗な娘やったな。ちょっとびっくりするぐらい」
「マスター! 近ちゃんの傷口に塩をぬすくるような事言って」
「いや、盗み聞きしてた訳やないけど、何かちょっと違和感があったから」
マスターの言う違和感は、僕もずっと感じていた。
「具体的すぎてな」
確かにそうだ──まだお互いが思っているなら、9月5日に会おうと言う台詞が僕を苦しめている。
「近ちゃん、試されてる?」
「試されてるとは?」
レプは、ラッキーストライクに火を付け、カウンターにあった黒い灰皿を持ってきた。
「愛の重さと質」
マスターが、得意げな顔でカウンターの向こうから言った。
「マスター、それな!」