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僕等は少し街をぶらつき、美容院ではなく理髪店で髪を切った。美容院だと気が変わり、お洒落パーマをあてかねないからだ。断髪式と言っても丸刈りにするわけではない。そこまでの勇気はなかったし、髪の毛命の我々ロン毛野郎には、余りにも過酷な罰ゲームになってしまうから。
「めっちゃスッキリしたわ」
「近ちゃん、すごい若返ってるんだけど」
「江戸やん、長いより似合ってるで」
髪の毛は全体に立つぐらいの長さまで切った。ここまで短いのは小学生以来だ。僕は残っていた茶色の部分もこの際だから黒髪に染めた。黒髪にするのもかれこれ2年ぶりぐらいだ。
「やばいわ。頭がめっちゃスースーする」
「スースーとか面白い。あれだな、シャンプーとトリートメントが少なくて済む」
「確かに」
みんなとの合流時間まであと5時間近くある。今から渋谷に向かっても何の問題もないが、もう少し江戸やんと話したかった。
「近ちゃん、飯でも食うか」
「そうやな。大丈夫か? 食欲ある?」
「普通にあるよ。ラーメンでも食おう」
「東京のラーメン!」
僕等は電車に乗り、池袋に向かった。江戸やんが子供の頃からの行きつけの店があるらしい。僕は食べた事はないが、『つけ麺』というものがあるらしい。ラーメンではなく、ざる蕎麦のように麺と汁が別々にくるスタイルだそうだ。
「結構行列やな」
「人気店だからな」
駅から少し歩いたところにその店はあった。店の前には、5人ほど店が用意したであろう折りたたみの椅子に座っていた。僕等は最後尾に並んで順番を待った。
「生まれて初めて食べるわ。つけ麺」
「思ったんだけど、大阪ってラーメン屋少ないよね。つけ麺屋とか見た事ないもん」
「ベタな中華屋はあるけど、ラーメン専門店ってあんまりないよな。つけ麺とかいうワード自体初めてやわ」
江戸やんが言うには、東京はラーメン激戦区らしい。僕はどちらかと言えばうどん派である。親父が四国出身なのもあってか、かなりの頻度でうどんが食卓に出る。
「さっきの話しだけどさ、高橋はマジでいいぞ」
「江戸やんは、あの憎たらしい奴に好かれてるやん」
「誰よ?」