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友達の恋の終わりを目の当たりにしたのは初めてだった。そんなにある事じゃない。貴重な経験かもしれないが、自分の事のように胸が苦しい。生きていると当然この季節はまた訪れる。その度に思い出して、こんな思いを繰り返すんだろうか──。あんな事もあったなと笑い飛ばせる自分になっていたいが、今のこの状態ではおそらく無理だろう。
「少し落ち着いてきたよ」
1時間ほど近くの公園のブランコに乗っていた。何処にでもある公園だ。ブランコの鎖が少し錆びていて、Tシャツに触れないようにしていた。
「それはよかった。江戸やん、東京に来た事は間違いじゃなかったか?」
「どうかな。でも、俺の中では随分前に終わっていたような気がするよ」
江戸やんの気持ちが痛い程分かる。僅かな可能性を信じ続けていけるほど、心も身体も大人ではない。早く楽になりたい気持ちがそれを覆い尽くしてしまう。結果を受け止める強さが備わっているかは別として。だが、経験しないと乗り越える事も出来ない。勇気を出して真実に向き合う事は、これからの長い人生において絶対に必要な事だと思っていた。そして、僕等の選択が間違いではなかったという事をこれから確かめたい。
「近ちゃんがいてくれてよかった。他の誰じゃなくて」
「経験者やからな」
「何かさ、近ちゃんとは不思議な縁を感じんだよね。親友なんだけど、自分自身のような。うまく言えないけどさ」
僕も同じ事を思っていた。うまくは言えないけど、彼の痛みや孤独がダイレクトに伝わってきて、手に取るように心情を理解出来てしまう。もちろん、こんな事は生まれて初めての経験だ。
「江戸やん、しんどいやろうけど、話し聞いてくれる?」
「いいよ。何かあったの?」
犬の散歩をしているお爺さんが、明らかに僕等を避けるように通り過ぎて行った。日も高くなってきて、背中が少し汗ばんできた。
僕は、振られたその日の事を詳しく江戸やんに話した。偶然入ったコンビニで彩乃に会った事、その後にファミレスに行って、振られた事を洗いざらい話した事など。
「高橋、良い子だよな。あの子はいいぞ。近ちゃん」
「そう? 向こうのが背が高いけど」
「全く関係ないよ。お似合いだと思う」