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「俺の顔を見た時の表情が目に浮かぶよ」
江戸やんの中ではもう完全に終わっているんだろう。
ピリオドマークを打つ為の東京旅行──江戸やんにとっては正念場だ。
「近ちゃんのように、新しい自分に脱皮したいよ」
僕は過去の失恋の呪縛から抜け出せずにいる事を言えなかった。この恋が終われば、新しい未来が待っていると信じている江戸やんには──。
新たな恋に踏み出す勇気──難しく考え過ぎているだけかもしれない。彩乃に電話番号を聞いて、デートに誘って、付き合おうと言えばいいだけだ。そんなにハードルの高い事ではない。歴代の彼女にもそうしてきたんだから。だが、結果は電話番号すら聞けずだった。
江戸やんと僕は似ている所が多い。だから、きっとこの恋の終末が尾を引き、臆病になるだろう。今の僕のように。
「江戸やん、運よく最寄り駅で遭遇したらどないするんや?」
助手席のレプが振り返って江戸やんに問いかけた。
「……。気持ちを聞くよ」
「その子、面と向かって言えるタイプの子かな?」
確かに電話でいくらでも言えたはずだ。
『もう付き合えない』
『遠距離に耐えられなくてごめんなさい』
電話の方が当然言いやすいはずなのに、何故ここまで引っ張っているのか──。
「このまま自然消滅を狙ってんやろうな。お前ほどの男前を振るのも逆の意味でハードル高いしな」
「レプ、それな。江戸やんをなかなか振れないやろう」
助手席のレプとリーくんが、僕では考えもつかなかった事を言った。目から鱗ではないけど、妙に納得した。
「近ちゃんはどう思う?」
「どうって?」
「彼女の気持ちを汲んで、このまま自然消滅するかどうか」
難しい質問だ。空気を読んで、このまま身を引くか、彼女と面と向かって話しをするか。
「やっぱり白黒付けたいな。悶々としてるんが1番辛い気がするし」
「そうだよな。近ちゃんという同志がいなかったら、こんな話しも出来なかったし、みんなのおかげで東京に行く事も出来る訳で。やっぱり話し合って納得したいよ」
「わかった。リーくんとたてでナンパでもしとくわ」
「あいな! 気持ち良く振られてきなはれ。江戸やんはん」
「ナンシーよ、君になりたいよ」
「近ちゃんはん、ナンシーだけはやめといておくんなはれ」
僕は、密かにナンシーに感謝していた。こいつのおかげで、この重い空気にそれこそ綺麗なピリオドを打てたのだから。