東京失恋物語
「近ちゃんはん、えらいブルーでんな」
「……」
「近ちゃんはん、聞いてまんのんかいな」
僕等5人組は、リーくんのヤンキー車で東京に向かっていた。僕は運転席の横にあるデジタル時計を見た。リーくんの家を出たのが9時過ぎで、そろそろ3時間が経とうとしていた。助手席にはレプ、後部座席は、左側に江戸やん、真ん中は僕、右側にたてである。最初のうちは盛り上がって会話していたが、だんだんと口数が減っていた。
「近ちゃんはん、高速道路の灯りが綺麗でんな。線香花火みたいですわ」
「せやな。綺麗な線香花火や」
「いやいや、全く気持ちこもってまへんやん」
相変わらずうるさい男だ。彼も人間だからそれなりに悩み事もあるだろうけど、僕や江戸やんのようなタイトな状況でないのは明らかである。
「近ちゃん、東京に着いて彼女に会いに行く時なんだけど……」
江戸やんが車に乗り込んでから初めて口を開いた。
「うん。何?」
「……」
集合する前に彼女に電話をしたらしい。そして、東京に行くから時間を作って欲しいと頼んだみたいだが、バイトだと断られたらしい。
聞いているのが辛かった。もう完全に終わりである事は馬鹿でも分かるからだ。今、江戸やんはどんな気持ちでいるんだろう。彼女に確かめる為に、家の前まで行った僕の気持ちと同じなのかと想像すると、かける言葉が見当たらなかった。
「とりあえず、着いてきてくれるか?」
「かまへんけど大丈夫か?」
このまま順調に行けば、パーキング等で休憩を挟んでも早朝には東京に着く。江戸やんが言うには、彼女の住む最寄り駅まで着いてきて欲しいらしい。他の3人は渋谷で適当に遊んでもらって、後で合流するという段取りである。
「バイトって断られたけど、バイトは本当にしているからさ。ただ、明日がバイトかどうかは分かんないけどさ」
彼女は基本的に電車移動らしい。自転車は滅多に乗らないし、原付き免許もない。移動手段は電車しかないから、駅の改札にいれば会える可能性は高いと江戸やんは言った。
「もう家まで押しかけたらどないでっか?」
確かにたての言う通り、早朝は迷惑だろうけど朝の9時ぐらいなら問題ないんじゃないかと思った。