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僕等はこの間のファミレスに向かった。横並びに走るのは危ないとか下手な言い訳をして、彼女の後方を走った。どうにも照れてしまってうまく話せる自信がなかったからだ。時折、彼女は振り返った。僕の存在を確認する為かどうかは分からないが。
高鳴る胸の鼓動がおさまらない──苦しいんだけど、ずっとこの感覚に包まれていたいような感覚だ。僕は小学4年の頃好きだった女の子の事を思い出した。名前は『松原凛子』。みんなから”リンリン“と呼ばれていて、クラスの人気者だった。中学に上がるまで好きだったが、名古屋に転校してしまい、僕の2年間の初恋は終わってしまった。別にどうこうしたいとかではなく、ただ同じ空間にいるだけで幸せだった。たまに日直が一緒だったりすると、一言二言交わす事があり、それだけで十分だった。何故、あの頃の淡い思い出が蘇ったか分からないが、彼女に対して特別な感情が芽生えていて、それがさっきの衝撃で立派に育った事は確かだった。
「近本君、大丈夫?」
「大丈夫。何で?」
「しんどいんかなって」
ファミレスの駐輪場で異変に気付いたかのか、心配そうに僕に言った。
「大丈夫。彩乃の足に見惚れてただけや」
「スケベ!」
なんとか茶化して事なきを得た。彼女の顔を見れば見るほど、“好きだ”という感情が溢れ出して止まらない。それと同時に、心臓を抉られるような痛みに襲われた。その正体は、言うまでもなく、拒否されたらどうしようという不安感。仮に、運良く付き合えたとして、またこっ酷く振られてしまうんではないかと思うと、胸が張り裂けそうだった。
「近本君、ほんまに大丈夫? 顔真っ青やけど」
「大丈夫。とりあえず飯食おう」
その後店に入ったは良いが、当たり障りのない会話で肝心の電話番号を聞く事が出来なかった。彼女も終始、僕の身体の調子を気にしてか注文したカルボナーラにほとんど手をつけていなかった。
『振られたらどうしよう……』
『断れたらどうしよう……』
その事ばかりが頭の中を支配していた──過去の失恋からまだ何も立ち直っていないのではないかと思った。彼女と前の彼女では何もかもが違うのに、失う怖さや孤独がリアルに蘇り、電話番号すら聞けない“ヘタレ野郎”に成り下がっていた。