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例の場所とは、昭和風味が漂う喫茶店『パインツリー』の事だ。学校から10分ほど離れた所にある。レプと連んでいた高校1年生の時に入り浸っていた喫茶店。僕らの通う学校の周りには、コンビニや喫茶店が多くあったが、このパインツリーは、路地に入って、クネクネと行った所にある隠れ家的な喫茶店。マスターともかなり仲良かったが、高校2年生になってからは、1度しか行っていない。その最後の1度は、間を空けようと言われた彼女と2人で行った。よく行く場所に連れて行って欲しいと言われたから、パインツリーに連れて行ったのだ。他によく行く店や場所等が思い浮かばなかったのもあるが。オレンジ色なのか、それとも黄色だったのが経年劣化でそうなったのかわからないが、とにかくオレンジ色のテントに、白でパインツリーと書かれており、最後の伸ばす所が半分剥げている。店先には、『サイフォンコーヒー』と書かれた小さな看板が置いてあり、焦げ茶色の木の扉を開くと、小さな鐘の音が、カランコロンカランと鳴り響くとても素敵な空間だ。
「で、妊娠でもさせたんか?」
「何でやねん!」
店内は、カウンターが5席、テーブルが3つのこじんまりした作りで、1番奥のテーブルだけ、ゲーム機をテーブルがわりにしており、僕らはいつもそこに座ってダベっていた。他のお客さんはいなかったら、迷わずそのゲーム機の席に座った。
「めちゃ久しぶりやんか! 他にダベる店出来たんかと思って寂しかったわ」
口にお洒落な髭を蓄えたマスターが、ココアとホットコーヒーを持ってきた。丸いレンズの眼鏡をかけて、これぞ喫茶店のマスターだと言わんばかりである。
「マスター、どうも! ていうか、俺らのいつもオーダーするやつ覚えててくれてたんや」
「ほんまや。まだ注文してないのに」
「覚えてるよ。近本君は、この間来てくれたよね。むちゃくちゃべっぴんさんと」
「マスター、その事でちょっと話しをするんですよ。近ちゃんと」
「もしかして、妊娠させたとか」
「あんたもかっ!」
そんなに妊娠させキャラに見えるのか、トイレで自分の顔を確かめたくなった。マスターはこの間と言ったが、結構前の話しだ。あれは、去年の年末だっと記憶している。思い返してみたら、すでに僕の心の中のその映像は、セピア色に染まっていた。