6ページ目
結局、その後もリーくんと話し込んでしまい、あっという間に時計の針は9時半を回っていた。リーくんと舎弟達は、バリバリとやかましい音を立てながらロータリーを後にした。リーくんとさしで話す機会はそんなになかったから嬉しかった。今までの友達とは明らかに毛色が違うし、色々と深い話しなんかも聞けて、偶然だけど、この駅に来て良かったと思った。ただ、一つだけ引っかかる事があった。前の彼女の名前を何かの拍子で言った時だ。一瞬、見たことない表情をリーくんは見せた。
『近ちゃん、それ、うちの姉貴のパターンによく似てるわ」
僕は、“パターン”という言葉にかなりの違和感を覚えた。当然、その違和感をクリアにしたい僕は、リーくんにどういう意味かを聞いたが、『気にせんといて』『考ええすぎかもしらん』という答えだった。リーくんのお姉さんも、僕と同じような感じで失恋したのかと思ったがおそらくそうではないだろう。あの時見せたリーくんの表情と、僕の推測では釣り合いが取れていないと感じたから。ただ、もう終わった話しだ。他の男の車から出てきた現場を目の当たりにしたし、これ以上は自分が惨めになるだけだ。もっと言うと、『間を空けよう』と言われたあの日にすでに終わっていたんだろう。
10時ジャストにコンビニの駐輪場に着いた──彩乃の自転車が止まっているのを見て、何故だかとても安心した。バイトなんだから居るに決まってるんだけど、胸の中のモヤモヤがスッと消えて、直ぐにドキドキに変わった。
「ごめん! めっちゃ待たしたよね。ごめんね」
薄いピンクのTシャツに、白のホットパンツの彩乃を見た瞬間、僕は雷に打たれたような衝撃を覚えた。
「どうしたん? 怒ってる?」
「いっいや、この前と雰囲気がまた違うから」
この間、ファミレスで食事した時とは明らかに違っていた。ホットパンツのせいだろうか、先程のドキドキとは次元の違うものだ。僕はそれを悟られぬよう平常心を装った。
「違うかな? 来てくれるって分かってたら、もう少しお洒落してたけど」
「いや、十分可愛いよ」
「おっ! 嬉しい事言ってくれるやん。近本君」
「本当の事を言ったまでさ」
「言ったまでさて、何で関東弁?」
江戸やんと連むようになって、家でもたまに関東弁になっていた。
「とにかく、飯行こうぜ」
「面白いわ。近本君。また関東弁やし」