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聞く話しによると、今から2年前に隣町の暴走族と藤川は付き合っていたらしい。リーくんが言うには、江戸やんに似ているそうだ。その暴走族の彼は、江戸やんのようなロン毛ではなく、短髪だったらしい。どれぐらい短髪なのか、一瞬気になったがどうでもいい事だし、聞く必要もないからただリーくんの話しを黙って聞いていた。
「ようするに、二股掛けられてたでOK?」
「平たく言えば。そんなこんなで目の敵にしとる感じやな」
逆恨みもいいとこだ──そんな事ぐらいでと言ってしまえば藤川に申し訳ないが、その腹いせを親友にぶつけている事が本当に許せなかった。
「近ちゃん、顔怖いど」
「リーくんに言われたらおしまいやわ。マジで」
「あほ、俺のは威嚇や。ほんまは穏やかな男やねんぞ」
舎弟の首がひん曲がるほどのヘッドロックをかける男が、何を寝ぼけた事をと言おうとしたが反芻した。喧嘩になったら、ほぼ100%負けるであろうから──。
「リーくん、基本、藤川寄りやな」
「……。悪い奴ではないし、中学の時から知ってるからな」
「よく連んでたん?」
「そやな。同じ族やったし、あいつの兄貴にはほんま世話になったしな。あんな尖った感じではなかったから」
藤川安奈には3つ上のお兄さんがいるらしい。その人にバイクの乗り方や、喧嘩の仕方等を教わったみたいだ。今でもたまに暴走族の集会に顔を出すそうだ。
「とりあえず、あいつは江戸やんが気になって仕方ないんやと思う」
「それはなんとなく分かるけど、江戸やんはそれどころやないしな」
「東京やな。白黒はっきりさせなあかんわな」
「ありがとうな。車の件」
「いやいや、かまへん。実は東京初めてやねん」
「実は、僕も」
僕はロータリーに止めてあるワインレッドの車を見た。この間、リーくんの家に遊びに行った時には感じなかったが、改めて見て、最高に悪そうな車である。地面と車体の間がほとんどなく、窓は全て真っ黒で、中は全く見えない。こんな車で東京まで行けるものなのか、道中、警察に捕まったりしないのか、様々な不安が余儀ったが、おそらく大丈夫であろう。色々考えたところで、結局はなるようにしかならないし、彼等とならきっと最高の旅になるはずだから。