3ページ目
僕は、バス停にあった吸殻入れにタバコを投げ捨てた。8時前だというのにあまり人がいない。駅名も何も知らないが、かなりマイナーな駅なんだろう。準急や特急などは、全速力で駆け抜けていきそうだ。
あたりを見渡しながら歩いたが喫茶店の一つもない。踏み切りの向こうに、たこ焼きと書いてある提灯が見えたが誰もいない。それを見て急に心細くなった。よくよく考えると生まれて初めての駅だ。こんなところに、2時間近くもとてもじゃないけど居られない。僕は、チャリを止めている電話ボックスまで走って引き返した。
『えっ……』
先程のロータリーに、見るからにヤンチャなバイクと赤ワインのヤンキー車が止まっていた。完全に暴走族である。丁度、電話ボックスの前で4人ほど見事なヤンキー座りでタバコを吸っていた。だが、ベタな特攻服は誰も着ていない。僕は、小走りで自分のチャリまで向かいその場を去ろうとした。
「おいっ! そこの兄ちゃん!」
背筋が凍りついた──喧嘩はした事はあるが、相手は4人もいるし、ましてや暴走族である。勝ち目はほぼない。ほぼないけど、敬語で『何ですか?』とか言うのもプライドが許さない。僕は玉砕覚悟で振り返った。
「何かようか?」
「近ちゃん! 俺やっ! 俺!」
「えっ! リーくんやんっ!」
「めっちゃびびってたやん!」
「そらびびるやろっ! よかった! ほんまによかった!」
僕は心の奥底から安堵した。ボコボコにやられた顔で彩乃に会わないといけないとか、シンプルに痛いの嫌だなとか、色んな事が一瞬で頭の中を駆け巡っていた。外灯がもう少し明るければ誰だか確認しやすかったのだが、ぼんやりと今にも消えそうなほど暗いこの外灯のせいで、寿命が縮まる思いをした。
「ていうか、こんなマイナーな駅で何やってんねん?」
僕は返答に困った。彩乃のバイトが終わるのを待っているなどとは言えないし、リーくんに会いに来たというのも嘘くさい。
「あてのない旅」
「いや、意味わからんからっ!」
後ろの3人が爆笑していた。よく見ると、眉毛のない人、剃り込み具合が間違いなくかたぎではない人、髪型は丸坊主で、首が取れるんじゃないかと思うぐらい太い金のネックレスをした人、もう絶対に関わってはいけない人達である。