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昼休みの食堂は賑やかだ──当たり前だが、学年の隔たりがない。たまに体育の先生がうどんをすすったりしている。体育館の横にある食堂は食券機で購入して、それぞれ麺コーナー、丼コーナー、定食コーナーの前に立っているおばちゃんに渡し出来上がりを受け取るという感じだ。
生徒でごった返す中、たてがオーバーリアクションで手を振っているのを見つけた。
「リーくん、あのテーブルみたいやな」
「おっしゃ! 気合い入ってきたで!」
一番後ろの丸テーブルの椅子の上に立ち、たては両手を振っていた。他の誰かがまた座るかもしれない椅子に、土足で立つ彼を軽く説教してやろうと思ったが、彼にもプライドがあるし、ましてや歳下の女の前で言う事でもない。後で反省会を開く事にしよう。
僕等はゆっくりとそのテーブルに近づいた。3人いる女子はみんな下を向いている。
「どや? 可愛いか?」
リーくんが小さな声で僕に言った。
「分からん。みんな下向いてるから」
僕とリーくんは空いている席に座った。たてはバランスよく、男子、女子となるように指示をしていたようだ。そのへんは抜かりがない。
「よく約束を覚えてくれてましたな、近ちゃんはん」
「君、隣のクラスの二階堂君だろ?」
「同じクラスっ! 何やったら親友でんがなっ!」
「そうだった。ごめんごめん、館林君」
「もういじれへんのんかいっ!」
僕は二階堂君のツッコミを無視して隣の女の子にお辞儀をした。
「すいません、うちのロバートが無理言ったんちゃいます?」
「全然っ! めっちゃ楽しみにしてました」
「近ちゃんはん、その子、誰か覚えてますやろか?」
僕は右隣の彼女をまじまじと見た。
「亜紀ちゃん。水沢の」
「フルネーム覚えてくれてたんですね。めっちゃ嬉しい!」
実は、事前にロバートから口酸っぱく言い聞かされていた。とにかく、居酒屋で会った彼女の名前だけは覚えてくれと。休み時間の度に言われていたので流石に覚えた。
「近ちゃんはん、わては感動してますねん。グッジョブですわ」
「近ちゃんが、名前覚えてるて凄い事やぞ」
リーくんが置いてけぼりを食らいそうになっていたのを嫌ったのか、無理矢理会話に入ってきた。