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彩乃とファミレスで食事をして以来、頻繁に目が合うようになった。当然と言えば当然だ。それだけ彼女を目で追っているのだから。だが、僕が彼女を気になって見ると、決まって目が合うのだ。それは僕が見ているからだと思うのだが、ひょっとすると彼女も僕を見てくれているのではという淡い期待もあった。
「どったの? 近ちゃん」
「いっいや、何でもないよ」
あれ以来、彩乃とはまともに話していない。友達になったのだから電話番号ぐらい聞いてもいいんじゃないかと思いながらも、なかなか機会がなかった。というのも、常に安奈がそばにいる。僕は全く気にならないが、彼女の立場が悪くなり、孤立することだけは避けないといけない。学校の中じゃまずいから、今日あたり彼女のバイト先に行って電話番号を聞こうと思っていた。
「とりあえず、昼休みまで寝るわ」
「俺もそうする。近ちゃん、おやすみ」
「おやすみ」
全く勉強する気ゼロだ──何がそんなに眠いのか、ロバート以外はみんな寝ていた。
あっという間に4限目の終わりのチャイムが鳴り、ロバートこと、館林は教室を飛び出していった。食堂の場所取りの為だろう。僕とリーくんは、その5分後、ダラダラと食堂へ向かった。
「リーくん、今度の土曜日、創立記念日の日やねんけど」
「おっ! 決めたんか?」
僕は、江戸やんの事を話した。免許取立てでいきなり東京とか難しいとは思いながらも、リーくんなら何とかしてくれる気がした。
「よっしゃ! 行こか!」
「ええのん?」
「ええもくそないがな。あいつの為にもそれがええ」
リーくんは快く受けてくれた。ただ、ガソリン代や、高速道路の代金を5人で割ろうという話しだった。
「当たり前やわな。あとでレプとかには言っておくわ」
「すまんな。セコい話しで。車買って金欠やねん」
話しによると、親父さんの車を100万円で譲ってもらったのはいいけど、維持費がとてつもなくかかるらしい。その為に、色々と節約しながら過ごしていると話してくれた。
「大変やな。リーくん」
「大人の男になる為の第一歩や」
リーくんは、細く鋭い目をさらに細くして得意げに言った。
「眩しいの?」
「眩しいの? やあらへんねん。イキり顔や」
関西では、カッコつけたりする事を“イキる”と言ったりする。僕の地元では余り使わなかったけど、高3になってから、やたら耳にするのは多分リーくんのせいだろう。