2ページ目
「女って、東京の彼女とか?」
「うん。はっきりさせた方がいい。江戸やんのモヤモヤが解消されるよ」
「最悪の結果だった場合は?」
「つい一週間前にその結果だった件」
江戸やんの言う最悪の結果とは、新しい彼氏が出来ていてこのまま自然消滅を狙っているという事。話しを聞くかぎりだとその可能性は非常に高い。僕と江戸やんは違う人間で受け止め方も違うだろうが、前に進む為には、“事実を知る”事は必須だと経験した。
「……。分かった。近ちゃん見てると明らかに様子が違うしさ」
「悲しい気持ちはずっとあるけどな。そんな顔してたら男前が台無しやで」
「ありがとう。ちょっと元気になった気がするよ、近ちゃん」
“ありがとう”って言葉は本当に不思議だ──心の中のヘドロみたいなものが、綺麗に流れていくような感覚だ。今まで言った事はあっても、言われた事はそんなにない。以前に、パインツリーのマスターと話した事を思い出した。『周りを良く見て、自分の事ばかりを考えない』という言葉を。
「とりあえず、今日合コンやねん。リーくんに聞いてみるわ。今、爆睡中やし」
「今起こしたら、ぶん殴られるよな。あいつ、寝起き機嫌悪いし」
「ほんまほんま。唯一、寝起きだけは怖すぎる」
江戸やんが笑っていた。それを見てなんだかほっとした。僕自身も、まだまだあの忌々しい映像は深く胸に刻まれたままだが、それよりも江戸やんに早く楽になってもらいたかった。
「とりあえず、合コンは見学するよ。絶対面白いはず」
「いやいや、参加しろよ」
「レプと話してたんだよ。あいつらの合コンは参加するより、見学の方が絶対面白いってさ」
「ちょっと待てよ! じゃあ、見学班にまわるわ」
「いや、近ちゃんは絶対参加。それを見たいのさ。たてをいじくるとことか」
正直合コンとかやる気がない。しかも学校の食堂でやるとか、せっかく遊び人のイメージを払拭したのに、彩乃達に見られたら元の木阿弥になってしまう。それだけは避けたい。
僕は背中に視線を感じた──彩乃が手を振っていた。その横で安奈と名前は忘れてしまったが、彩乃の親友とやらが2人で喋っていた。