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遠慮なく大好きなミックスサンドを注文した。彩乃はシーフードドリアとアイスカフェオレ。女性に奢ってもらう事など滅多にない事だが、会計で自分が出そうと思っていた。バイトはしていないが、ファミレス代ぐらい出せるお金は持っている。
「近本君、それだけで足りる? ハンバーグとかにすればよかったのに」
ハンバーグは大好きだが、いきなり濃いものをすっからかんの胃袋が受け付けなかった。
「この卵のやつがめっちゃ好きやねん」
「うそっ! 私、タマゴサンド作るのめっちゃ得意やねんけど。唯一、お母さんに褒められる」
「料理とかするんや。女の子やな」
「たまにお弁当で持ってくる。今度、タマゴサンド作ってあげるわ」
「マジでっ! ありがとう。期待せず待ってるわ」
ご飯を食べ終えてアイスカフェオレが来た。僕は注文しなかったが、彩乃が私だけ飲めないという事で、追加で注文した。女子と行くファミレスの本番はこれからと言っていい。ダラダラとドリンク一杯でたわいも無い話しをするのが醍醐味だ。
僕は彼女との事を詳しく彩乃に話した。彼女が知りたいと言ったからだ。誰かに話す事で浄化される事は知っていた。どうにもならない事を抱えこむほど身体に悪い事はない。だから、遠慮なく彩乃に全てをぶちまけた。彩乃は、古傷を庇うようななんとも言えない表情でこちらを見ていた。
今回の失恋で学んだ事がある──それは自分の事ばかり考えるんじゃなく、周りをよく見ると言う事。人は、結局一人では生きてはいけないのだから。大したお返しは出来ないけど、後で彩乃の話しも真剣に聞こうと思った。
「9月5日て、夏休み終わってすぐぐらいやね。そこがちょっと引っかかるかも。私でも」
「うん。かなり引っかかってたけどもう終わったしな」
「彼女的には近本君以外とも付き合って、やっぱり近本君が一番やと確かめる為にその白い車の人で実験してるんかな」
「そんな事したりするん?」
「しないかな。私の場合やから参考にならないかもやけど」
彼女から、『別れよう』とは言われていない。言われてはいないけど、あんな場面を目の当たりにして、まだ可能性を模索するほどのエネルギーは僕には残されていなかった。