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線路沿いを5分ほど走っただろうか──隣駅付近まで来ていた。信号を曲がったところに、大きな赤い看板が長いポールの1番上でゆっくりと回っていた。割と賑やかな通りで、この時間でも明々と各店舗が主張し合っていた。
僕と高橋彩乃は店員に案内された4人掛けのテーブルに座った。店内は若者中心に結構埋まっていた。
「近本君、何食べる?」
テーブルにあったメニューを僕にも見えるように開いてくれた。一つ間違えれば指先を切ってしまいそうな材のメニュー表だ。
「私、パスタにしようかな」
正直、喉は渇いていたがお腹は相変わらず減らない。僕はその事について彩乃に聞いてみたいと思った。
「じっ実は、まともにこの3か月、飯食ってない。お腹が減らなくて」
「……。私もそうやった。ここ最近までそんな感じ」
「やっぱり? 今はどうなん?」
「ようやく振られる前の食欲に戻ったよ。近本君、めっちゃ細いもんね」
「52キロジャスト。3か月前に比べて5キロぐらい落ちた」
「やばいって! 私と変わらないやん。ていうか、私のが重いやん!」
「身長があるからええやん。ご覧の通りちびっ子なもんで」
彼女の身長は僕より遥かに高かった。172センチもあるらしい。だが、その事がかなりのコンプレックスで、物心ついた時からずっと悩んでいるそうだ。
「なんか、ごめん。そうとは知らず」
「いいよ。近本君なら逆の意味でこのコンプレックスを理解してくれそう」
確かに僕は身長が低い事が悩みで、あと10センチでいいから欲しいと思っていた。彼女はその逆で、あと10センチ低いとベストと言った。
「頼むから、10センチくれ」
「私もあげられるものならあげたいよ。タダで」
「タダっ! マジかよ」
「あげられるものならね」
一瞬だが彼女の事が頭の中から消えていた。仲間と馬鹿騒ぎしている時ぐらいしか忘れる事はなかったのに──。
「何か、忘れてたわ」
「何を?」
「振られた彼女の事。ありがとう。飯誘ってくれて」
「やっぱり全然違うやん。」
「ん? 何が?」
「みんな、好き勝手言ってる。近本君らのグループは、女癖悪くて最低とか」
「そんな割り切って遊んでみたいもんだよ」
「めっちゃ真面目でびっくりしてるよ」
「真面目かどうかわからんけど、病んだ日々ですわ」
「今日は私の奢りっ! 何でも注文して」
「何かちょっとお腹空いてきたわ」
「よかった! 何でも食べて」