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「お待たせ!」
駐輪スペースの奥から高橋彩乃が出てきた。スキニータイプのジーンズに、薄手の黒のロングTシャツ、盛り上がっている胸に“ROCK TAWN”と黄色でプリントされている。
「高橋彩乃さん。お疲れ様」
「お疲れ様。何でフルネーム?」
「いや、何て呼んだらいいかわからんから」
「彩乃でいいけど……」
「それじゃ、彩乃で」
「軽っ。近本君、ご飯食べた? こんな時間だから食べたかな」
「……。昼にパン食べてから食べてない」
「よかった! 夜ご飯付き合って」
そういうと、彼女はサイズの大きな銀色のチャリにまたがった。
スキニータイプのジーンズのせいか、お尻が強調されていてサドル付近から目が離せなかった。
「どうしたん? 24時間でやってるところって、ファミレスぐらいかな」
「いっいや、なんでもない。ファミレスか、牛丼ぐらい?」
ついさっき、失恋したばかりなのに、違う女のケツを見ている自分が残念でならなかった。ここ最近は、興味すら湧かなかったから。
「ファミレス行こう! 牛丼やったら食べたらすぐに出なあかんし」
「わかった! この辺りの土地勘まるでないから、道案内よろしく」
「そうなん? さっき、めっちゃびっくりしたんやから」
「声を掛けられるまで気づかんかった」
高橋彩乃と並んでチャリを漕いでいる──夜風にほどけた茶色の髪が、やけに色っぽく見えた。
「こっちには用事で?」
「……」
何て答えればいいかわからなかった。女にコテンパンに振られて、街を徘徊していたなんて普通ならカッコ悪くて言えないが、何故だかありのままを高橋彩乃に話していた。
「……。辛いね。気持ちわかるよ……」
「……。ありがとう」
思わず、“ありがとう”と言ってしまった。悲しみを共有してくれた気がしたからだ。でも、彼女の目は何処か寂しそうで、まるで、遠い日に見た線香花火のようだった。
「私も、それに近い事が3か月前にあって……」
「3か月前って、春休みぐらい?」
「……。そう。振られた……」
「マジか……。一緒やん」
「あの信号曲がったらファミレスあるよ。続きはご飯食べながらでも」
「まさに、失恋レストランちゃいますか」
「近本君、ほんま面白い」