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想像していた悲しみを遥かに凌いでいた。あのままじっと9月5日まで耐えていた方が良かったとさえ思えるほどの苦しみが襲ってきた。こんな絶望的な状況の中でも、目を閉じて浮かんでくるのは幸せだった彼女との思い出や、彼女の笑顔だった。少しツンとしていて、冷たく見える彼女は実はとても寂しがり屋だ。僕がいないと、『生きていけない』、『死ぬまで一緒にいてほしい』と言っていた彼女だったのに、僅か3か月でこんなにも変わってしまうものなのか──。
自宅に戻るつもりが彼女の香りがしない場所を本能的に探していたのか、リーくんの最寄り駅に来ていた。この駅にはまだ一度しか来たことがない。駅周辺を自転車で徘徊していれば、リーくんに会えるかもしれない。リーくんなら今の自分を軽く笑い飛ばして、背中に2、3発、愛の鞭をくれるだろう。そんな期待を抱きながら駅前の商店街の入り口で止まった。
『何か飲み物でも買うか』
お腹は全く空いていなかったが、喉は干し上がるほど渇いていた。丁度コンビニがあったので、僕は駐輪スペースに黒のママチャリをだらしなく止め、店内に入った。
自動ドアが開いた瞬間、客を迎えいれる妙なチャイムの音を背中に、飲料水が並べてある冷蔵庫の前に立った。店内は冷房が効いていて、汗だくの身体に染みた。
僕はペットボトルの烏龍茶を取り出してレジに向かった。他の客が3人ほどレジの前で待っていて、最後尾に立った。
「お待ちのお客様こちらどうぞ」
後ろから声が聞こえた──微妙に混んできたので、もう一つのレジを開放するんだろう。2人目の大学生風の男が隣のレジに行った。1人目のサラリーマン風の男は、会計が終わり、3人目のおじさん、つまり、僕の前の人の会計が始まった。順番からして向こうのレジになりそうだ。移動するのが多少面倒くさいが仕方ない。
「次のお客様どうぞ」
案の定、向こうのレジに行く事になった。前のおじさんがカゴいっぱいにお酒や、お菓子を入れていたから、そうなるのは必然だった。
「すいません、セブンスターもらえますか」
「えっ! ちっ近本君?」