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カーブを曲がり切った向かい側の彼女の家の前に、白い車がランプを点滅させて止まっていた。反対側の僕は、悪い事もしていないのに身を隠す場所を探した。丁度、民家と民家の間のスペースがあったのでママチャリごとそこに入った。
視力は両眼とも凄く良い。等間隔にあるナトリウム灯のおかげで、ここからでも白い車が良く見える。
僕は白い車の運転席を見た。男が助手席の誰かと話しているようだった。助手席が男なのか、女なのか、反対側なら確認出来たかもしれないが、ここからでははっきりとはわからない。
すぐに運転席から男が降りてきた。高身長で、紺のブレザー、ジーパン姿だ。髪は茶色で、耳が隠れる程度の長さ、いかにも遊んでいますよと言わんばかりにチャラチャラしている。
心臓がはち切れそうだ。助手席に向かうチャラチャラした男から目を逸らしたくなるほどに。どうか、助手席から彼女が降りてこないようにと天に祈った。だが、現実とは残酷なもので降りてきたのは、髪型は違っていたが紛れもなく彼女だった。心の奥底から会いたかった彼女だった──。
『……』
息が出来ない──苦しくて左胸を押さえた。涙がとめどなく溢れる。彼女は、笑顔で彼に手を振り、自宅へ入っていった。彼はそれを見届けて白い車に乗り込み、アクセルを吹かして駅の方へと消えた。
「終わった……」
完全に終わった。僕は白い車の男の事よりも、シンプルに彼女に会いたかった。会って、抱きしめたかった。離れ離れなら、死んだ方がマシだと泣きつこうかとも思っていた。だが、恐れていた答えの1番最低の現実が、僕の心を容易く撃ち抜いていったのだ。『会いたくなかったのか?』『寂しくなかったのか?』と聞こうと思っていた事が、ただの独りよがりでどうしようもなく情けなかった。
僕は民家と民家の間から飛び出して、そのまま猛ダッシュで自宅の方へ向かった。
久々に見た彼女は大人びて見えた。髪型のせいかもしれない。綺麗なソバージュだった。僕が見た事のない黒のワンピース、白い車の彼に向けられた笑顔、悲しいぐらい脳裏に焼きついた。3か月しか経っていないのに、僕だけだったみたいだ。あの頃のままだったのは。彼女はもう新しい道を見つけて歩いていたんだ。傷だらけの僕を残して──。