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僕の通う学校は、自宅から自転車で40分ほどの所にある。この2年間で色々ショートカットを重ねて、オリジナルロードを作ったが、それでも40分はかかる。雨の日などは、朝起きて、雨音が聞こえた時点で学校に行く気はほぼゼロ。ただでさえやる気もない、将来やりたい事もない、興味のある事もない。このままゴミのような人生なんだろうと。夢があろうとなかろうと、学校までの距離が突然短くなろうと、あいつがいなきゃ何の意味もない。
新しい教室の新しい席に座り、黒板の右端に書かれた日直という文字を見ていた。クラスメイトになる奴らより、なにか一点に集中して、すぐ隣にある闇を食い止める事に全力を注いだ。頭の中を空っぽにする事など不可能な事はこの2日間で痛いほどわかった。後半年、僕は彼女なしで生きていけるだろうか──。
「よっ! 近ちゃんやん!」
後ろから肩を叩かれた。聞き覚えのある声と、懐かしい香水の香りが背後から漂った。
「おっ! レプやんか!」
糸井勇介──高校1年生の時に同じクラスだった親友であり、悪友。人気俳優にそっくりなことから、『レプリカ』とあだ名をつけたが、めんどくさくなったので、『レプ』と端折って呼んでいた。
「まさか近ちゃんと同じクラスになるとはな。ツイてるわ!」
「いや、ほんと。1番一緒のクラスになりたい奴」
本当は、クラスメイトになる奴などどうでもよかったが、レプが一緒だという事で、何故か気持ちが少し楽になった。高校2年生の時は、全く音信不通だったが、彼女もいたし、バイトに明け暮れていたから、レプの事は全く意識の向こうだった。
「いや、楽しくなりそうやわ。よろしくな」
「こちらこそ!」
僕らは、当時やっていた仲間の印である、お互いの右手を握り、解いた瞬間、パチンと手のひらを合わせ、親指を立てて口元に持ってくるという、一連の寒い流れを約1年ぶりにやった。
「覚えてるやん! 近ちゃん」
「レプも。当時、寒いとか言ってたやん。めちゃ覚えてるし」
「忘れるかい! 意外に気に入ってたんや」
「気に入ってたんや」
レプは少し茶色がかった頭髪の毛をかきあげて、照れ隠しなのかよくわからないが、目を細めていた。