6ページ目
「ちっ近ちゃんはん、完全に廃人やんかいさ」
「とりあえず、これは俺の奢りや」
リーチは抹茶色の年季の入った角皿を出してくれた。焼き鳥の盛り合わせだ。
「あんがとさん! リーチはん」
タレと塩がそれぞれ4本ずつ盛られていた。早速たてはねぎまを貪っていた。僕はさっきのリーチの話しで、いつもに増して食欲がない。着ているお気に入りの白のパーカーと、黒のスキニーパンツが、かなりだぶついていた。去年から愛用しているが、着た瞬間に違和感を覚えるほどだった。自分では気づかなかったが、去年から比べると随分痩せたんだろう。いや、そんな事よりも要らぬ妄想が頭の中を掻き立て、胸のざわつきを抑えられなかった。
『スポーツカーに乗っていた奴とは……』
『そいつは新しい恋人なのか……』
『まさか、既にやっちゃってる関係?』
心にずっと大きな蓋をしていた──自分の力で容易く持ち上がるほど軽い蓋だ。リーチからスポーツカーの話しを聞かずともそういった不安はあった。それを無理矢理押しこんでいた。微かにあった希望という名の光を信じていたかったから。だが、その蓋は遥か彼方まで吹き飛ばされてしまい、中から幾つもの疑惑がここぞとばかりに飛び出してきた。そのまま何処か遠くへ行ってくれればいいものを、僕の周りで派手に踊り狂っていた。
「近ちゃんはん、食べまへんのん?」
「……ちょっ、ちょっと帰るわ。申し訳ない」
たてに2000円を渡して店を出た。久しぶりに会ったリーチには申し訳なかったが、いてもたってもいられなかった。
真実を会って確かめたい。スポーツカーの男の事はもちろんの事、何故、間を空けなければいけなかったのか、そして、この状況に耐えられているのか、寂しくないのか、会いたくないのか──。
溢れ出る涙をパーカーの袖で拭い、駅の駐輪場に向かった。等間隔に植えられているこの桜の木も、今は誰も見向きもしないだろう。僕は緑の葉を纏ったそれを見て、確実に季節は変わったんだと実感したが、心は3か月前のあの日から何も変わっていなかった。運良く4人の友達のおかげで生き長らえただけだった。大袈裟かもしれないが、彼らがいなければ息もまともに吸えなかったのだから。