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「すっすいません! お待たせしました」
彼女は烏龍茶の入ったグラスを突き出しの横に置いた。グラスの中はかき回せないぐらいに氷が敷きつめられ、烏龍茶は少し揺れただけでも溢れるほどなみなみと注がれていた。
水沢亜紀──同じ学校に通う一学年下の16歳。いつかの昼休みに学食で最後のコロッケパンを買いそびれ、何も言わずにその最後のコロッケパンを譲ってくれたのがきっかけで恋に落ちてしまう。見た目は152センチと小柄だがすでに大人の色気が漂っている。
「コロッケパンとかほんまに譲った?」
「……はっはい」
彼女は恥ずかしそうに割烹着と同じ色の暖簾をくぐり、奥へと消えた。
「近ちゃんはん、あの娘ほんま可愛いですやん、ボインちゃんやし」
確かにジャストサイズではない割烹着の上からでも巨乳だとわかるぐらいだった。顔も、はっきりとした二重で口も小さい。たての言うようにとても可愛い娘だ。
「ちっかん、あの女とは続いてるんか?」
「……」
「この間も言ったけど、微妙なんですわ。近ちゃんの状況」
たては何度かこの店に飲みに来ていてリーチと仲良くなっていた。彼の住む街にも居酒屋ぐらいいくらでもあるはずなのに、敢えてこの“うちしお”に来るには訳があった。以前にここで3対3のコンパをしたらしく、水沢亜紀の友達である“広瀬美奈”に一目惚れしたそうだ。彼の一目惚れは、彼と連むようになってから5度目である。極端に言うと、毎日誰かに一目惚れしている大スケベ野郎だ。
「実はな……」
リーチが少し言いづらそうにしている。
「この間、お前の女が飲みに来てな。女3人で」
胸が締めつけられた──どの席に座ったのか、僕の知っている友達なのか、どんな服で来たのか、変わりはなかったか、色々聞きたかったが締めつけられた胸に無理矢理しまい込んだ。
「閉店まで飲んでて、シャッター下ろそうかと思って表に出たら、真っ白のスポーツカーにお前の女だけ助手席に乗って走り去ったわ」
「どっどないしまんねん。近ちゃんはん! 大学生か、社会人の男が登場でんがな」
頭の中が真っ白になった。いや、真っ暗か。いや、もうどっちでもいい。このままマシンガンで跡形もなく打ち抜いてくれ。跡形もなく……。