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ねじり鉢巻きに紺色の割烹着のリーチは、凄く大人に見えた。小学校の時からモテモテの彼は、当時、足がとてつもなく速く、運動神経抜群だった。もちろん、顔もキリっとした目で、彫りが深く、髪型もサラサラでモテない要素が見当たらない完璧な男だ。身長は僕より少し高い170センチ。唯一の欠点と言えるが、僕よりも5センチも高い彼をずっと羨ましく思っていた。基本、自分より背の高い奴を妬む傾向にあるが、最近はそんな事もあまり気にしなくなった。
「何飲む?」
「近ちゃんはん、何飲みまっか?」
「麦茶で」
「麦茶て。せめて、烏龍茶にしなはれ」
「烏龍茶で」
「素直か! ほなら、わては生もらえまっか?」
「今日はやめといたほうがええぞ。この間も補導されよったしな」
リーチが言うには、この間、高校生ぐらいの奴が飲んでると、交番に通報したサラリーマンがいたらしく。各学校の先生も抜き打ちで繁華街を調査しているらしい。
「ほなら、わても烏龍茶で」
「あいよ! 烏龍茶2つ!」
奥から茶色のミディアムロングの女の子が、リーチと同じ割烹着で出てきた。
「近ちゃんはん、今の娘ですわ。見覚えありまっしゃろ?」
僕はまじまじと彼女を見た──だが、まるで見覚えはない。全く知らない人だ。
「知らないな。たてよ、あれは誰かね?」
「誰かねやあらへん。同じ学校ですやん。一個下の」
たてが早く思い出せと言わんばかりに捲し立てるが、全く記憶にないのだ。
「ごめん。分からん」
「おい! 分からんやて。残念やな、亜紀」
「リーチ、マジで誰か分からんねんけど」
「聞いた話しやと、食堂で、最後のコロッケパンを譲ったんやろ?」
リーチが聞いてきたが全く記憶にない。
「近ちゃんはん、つまり気づかない間にあの可愛い子ちゃんに好かれていたという事ですわ」
確かに可愛いとは思うが、本当にそれどころじゃない。約束の日まであと3か月とちょっとである。なんとか彼女と再会する為にも頑張らないといけない。
「あいよ! とりあえず、つきだしや」
リーチが六角形の薄い緑の小鉢を僕等の前に置いた。中身はほうれん草の白和えである。
「近ちゃんはん、とりあえず乾杯しまひょ」
「いや、烏龍茶きてないけど」
「すまん。おい! 烏龍茶まだか!」
奥から先程の可愛い子ちゃんが飛び出てきた。