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平成初期型!!  作者: 稲田心楽
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2ページ目

 

 待ち合わせ10分前にY駅に着いた。僕は自慢ではないが遅刻をした事がない。学校や通っていた塾にはよく遅刻していたが──。



 高校1年の時、生まれて初めてのバイト初日に親父からこんな事を言われた。



『他人の時間はお前のものやないで』 『他人の時間を大切にすれば、お前の時間も大切にしてくれる』



 僕は親父に聞いた。



『相手が大切にしてくれない場合はどないしたら?』



 親父はすぐさま答えてくれた。




『器の問題やな。“許す”事の意味と大事さをまた教えたるわ』



 その時は難しくてよく分からなかった。今も分かってないが……。ただ、遅刻はしないと心に決めている。尊敬する親父の言葉に嘘偽りはないと信じているから。



 待ち合わせの時間より10分が過ぎた──このY駅は、特急電車も停車する割と大きな駅だ。駅前もひらけており、子供の頃デパートで買い物をして、最上階でご馳走を食べるのが楽しみの一つだった。



 中央改札を出るとすぐにそのデパートとの連絡通路があり、そこでたてと待ち合わせだ。



「すっすんまへん! 近ちゃんはん」


「どりゃっ!」


「ぐへっ!」



 遅れてきたたてに回し蹴りをお見舞いした。彼の弁慶の泣き所にクリーンヒットし、しゃがみこんでいた。



「20分遅刻じゃ!」


「ゆっゆるしてくんなはれ! ていうか、10分ですやん! 10分!」


「10分前に着いたから、合わせて20分じゃ!」


「そんな殺生な!」



 むかついたので、さらに背中にエルボーを喰らわせた。鈍い音と感触が肘に響いた。



「ぐへっ! すっすんまへん。くっ靴を履き忘れまして」


「おもんないから!」



 もう一発お見舞いしようかと思ったが、親父の言葉が頭を過ぎった。



『器の問題やな』



 僕は怒りを抑えて目を閉じ、5秒数えた。



「ほんますんまへん」


「今度から遅れんなよ」


「はいな!」



 膝をついて倒れ込んでいる彼に手を差し伸ばした。



「ありがとさんです」



 雑誌か何かに、『難しく考えずに5秒数えろ』と書いていた事を思い出した。不思議な事にイライラが無くなった。もちろん、全くという訳ではないが。



 僕らは、デパートまでの連絡通路を歩いた。彼は背中をなでながら歩いている。僕はたてに今日の集まりについて具体的に聞こうとしたが、彼の私服がとんでもない事になっていて、今日の事よりその件についてツッコまずにはいられなかった。









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