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「何でお前が知ってるんや?」
僕は、本当に寝ていたかのように目を擦りながら振り返った。
関川梨花──高1の時に生まれて初めて出来た彼女。同じクラスで、席も近く、隣町に住んでいた事もあって話しが弾み、どちらかが告白するとかそんな感じではなく、自然にそういう関係になった。彼女とは3か月も続かなかったが、良い思い出として僕の心のアルバムに閉まってある。
「お前てなんや?」
「お前はお前やろが。アホか? お前」
「梨花が言ってたわ。めっちゃ優しくて頼れる男やて。それやのに、何でロン毛と連んでるんや?」
そんな事を言われていたとは思いもしなかった。基本的に彼女は大切にする男だ。それなのに、何故間を空けようと言われたのか考えないようにしてきたのに、この女のせいでまた深い闇にさらわれそうになった。僕は、ひたすら江戸やんの悪口を言う藤川の後ろにいる女2人を睨みつけた。
藤川の右隣の女、完全に飼いならされている感が半端ない。クチャクチャとガムを噛み、精一杯悪ぶっている姿が痛々しく感じた。明らかに高校デビュー丸出しで、刑事ドラマ等で、真っ先に補導されそうな身なりだ。
そして、左隣の女はずっと俯いている。まじまじと見るのは初めてだったが、結構可愛い。170センチは越えているように見える。一見モデル風にも見える彼女が、何故、子飼いとして藤川と連んでいるのかわからないぐらい毛並みが違っていた。
「とにかくや、あのロン毛の香水の匂いなんとかしてよ」
僕の中で何かが切れる音がした。確かに、江戸やんはバケツ一杯分ぐらいの香水をかぶって来たのかと言わんばかりに匂うが、これ以上自分の友達を悪く言われるのは耐えられなかった。
「江戸やんは大切な友達や! それ以上言ったら、お前ほんまに表出られへんようにするぞ!」
「ふんっ! 何イキッてんねん。キモいねんけど。こんな奴ほっとこ」
吐き捨てるように、藤川と女2人は教室から出ていった。恣意的な彼女の振る舞いに怒りが収まらなかったが、教室から出る瞬間、例のモデル風の彼女が振り返り、僕に頭を下げた。それを見て、軽く沸点越えの怒りが、70%まで冷却された。
『あのデカい女、名前なんだっけ?』
女子も男子も、ほとんど名前すら知らなかった。いや、覚えていなかった。そんな事に気が回らなかったと言った方がいいか。でも、不思議とあのデカい女の名前を知りたくなった。