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「レプ、大阪はこの感じ流行ってんの?」
「流行った事ないだろ。近ちゃんと李君だけだろ。よく分からない基準で生きてんの」
僕等はバニラシェイクで乾杯をした。李君は見た目は恐ろしいけど、妙に気が合う。絶妙とまではいかないが、価値観が似ている気がした。
「ところでさ、お前らってえらい評判悪いな」
「薄々は気付いてたがな」
「レプ、薄々てどういうこと?」
レプはシェイクの上蓋を取り、ポテトを突き刺していた。まさかそれを食べるのか……。
「その食べ方好き!」
「マジか! 江戸やんもやった事あるん?」
「シェイク頼んだらやるね」
そんな食べ方があるとは、17年も生きてきて知らなかった。僕も恐る恐るポテトを突き刺して、口の中に入れた。
「美味い! 全ての食べ物の中で1番美味い!」
「近ちゃん、狭いよ。世界が」
関東のツッコミの冷たさに少しずつだが慣れてきた。最初はキツいと感じたが、悪気は一切ないらしい。文化の違いだとレプが教えてくれた。
「とにかくや、女やりまくってるらしいやんけ。俺にもやらせろ」
李君が言うには、うちのクラスの女子は全員嫌ってるらしい。香水の匂い、だらしなく着る制服、存在自体が嫌いだと言う女子もいるとかいないとか。
「やりまくるどころか、病んだ日々ですけど」
「俺も……。東京にいる女の事で死にそうだ」
李君はレプの顔を見ていた。『お前はどうなんや?』と言わんばかりに。
「俺はやりまくってるぞ。ただし、歳上限定」
「お前さ、歳上限定て、それがいっちゃん難しいんやないか。神か?」
「とりあえず、江戸やんと近ちゃんは死んでるよ。誰が発信元?」
「たぶん、あいつらやな」
「なるほど」
レプと李君の会話で、誰の事を言っているのかピンと来た。間違いなくあの女だろうと。
「近ちゃん、誰か分かったの?」
「おそらく藤川やろうな」
「ご名答! 実はな、あいつ元ヤン。今でこそ無理矢理清楚系にしとるけど」
藤川安奈──我が高のマドンナ的存在。確かに可愛いが、性格の悪さが滲み出ていて苦手である。
「お前の暴走族に入ってたんか?」
レプは暴走族のリーダーであろうが、誰であろうが、態度を一切変えない。僕は、そんなレプを尊敬している。普通、同級生でもいかにもなルックスの奴を目の前にしたら、多少なりともビビってしまうものだが、まるで僕等と話すみたいに李君と向き合っていた。
「中学の時な。何の縁かしらんけど、高校入ってからもずっと一緒のクラスや」
「それはもう付き合うしかないやろ」
「アホか! 俺は歳下しか興味ないんや。ていうか、お前がこのグループのリーダーか?」
「リーダーは近ちゃんやろ。こいつと一緒におったら分かるわ」
「お前がリーダーか? 俺も仲間に入れてくれ。学校おもんないし」
僕はレプを見た。レプは口パクで、『例のやつ』と言った。何故、口パクかは分からない。
「いいだろう。仲間になる為には、あだ名をつけなければいけない」
「おっ! ええやん。そんなん意外と好き」
僕はレプと違って少々ビビッていた。見た目的にヤバイから、シンプルに『893』にしようと思ったが、しばかれそうなので、無難に『りーくん』と命名。
「いいね。明日から、頼むわ」
ひょんなことから、暴走族のリーダーが仲間に入った。いろんな意味で、彼が仲間なら心強い。特に喧嘩や揉め事は即解決だろう。