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僕等がティッシュ配りをしていたエリアの反対側、北口の方にバーガーショップがある。どの街にもあるチェーン店である。席取りに僕と江戸やんは2階へと向かった。時間帯もあってか、ガラガラに空いていた。というより、1人のお客も見当たらない。僕等は、2階フロアのど真ん中の席に腰を下ろし、レプと李君を待った。
「誰もいないね……」
「江戸やん、今何時?」
クリーム色の壁に時計が掛けてあったが、あえて江戸やんに聞いた。いつも身につけているシルバーの髑髏ブレスレットと、赤いミサンガの間に、ゴロンとしたいかにもな高級時計がずっと気になっていたからだ。
「もう10時過ぎだよ」
「けっこう時間経ってるな」
「近ちゃん、実はさ……」
『その時計、めっちゃ高そうやな』と言おうとしたが、江戸やんから、昨日、“冷たい彼女”から連絡があったと話してきた。いつもと様子が違ったみたいで気になっているとの事。
「どう思う? 近ちゃん」
「最近、冷たいとか言ってたよな。急に泣かれてもな」
電話口で号泣されたらしい。『寂しい』とか『会いたい』とかを連発していたようだ。最強の“ネガティブマン”の僕としては、新しい彼氏、あるいは、候補と喧嘩やすれ違いがあったんじゃないかと推測した。当然、頭を抱える江戸やんを目の前にして、それを言う事は出来ないし、定かではないから。
「お待ちどう!」
「めっちゃ店員やる気ない!」
レプと李君が、トレイいっぱいのハンバーガーとポテト、シェイクを持って席に来た。
「めっちゃ美味そう!」
「とりあえず、ご苦労様! 近本、お前には特に世話なったな。好きなん食べろ」
レプと江戸やんがうなづいている。僕から選んでくれと言わんばかりに。
「いや、好きなん食べろって言われても、全部ハンバーガーの件」
「ほんとだ。シェイクは味が違うんじゃない?」
そう言うと、江戸やんはシェイクの色を確認してくれた。
「全部バニラの件」
「全部一緒の方が早いと思ったのに、店員がグズ野郎でさ、ぶっ殺したろかと思った」
話しによると、真面目に働かない奴は大嫌いとの事。それと、他人に迷惑になる事をする奴は許せないらしい。一応言っておくが、彼は暴走族のリーダーである。