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『まさかと思うが、あのダンボールのテイッシュを全て配るつもりなのか?』
見渡しても、彼以外にテイッシュ配りをしている人はいない。彼は両手にそれを持ち、前を通る人に渡そうとしていたが、なかなか受け取ってもらえずにいた。
「あいつ、暴走族のリーダーやで」
「マジ? めっちゃ嫌いな人種やねんけど」
「近ちゃん、何で嫌いなの?」
「いや、ルール違反してるし、人に迷惑掛けてるから」
「レプ、ちょっと分かんなくなってきた……」
「独特の線引きやからな。近ちゃんは。でも、暴走族になりたくてなったんじゃないかもよ」
そう言うと、いきなりレプは西側の階段を走って降りて行った。
「おいおい! レプ、何処行くんや!」
「近ちゃん、俺達も行こうぜ!」
僕と江戸やんはレプの後を追った。あまり関わり合いたくないタイプだったが、歩道橋の上で女の事をウジウジ考えているより幾らかマシだと思った。
「こらっ! バイト禁止やぞ!」
「うわっ! びっくりした!」
彼の背後にそっと近づいて、レプが大声で言った。彼は、お笑いコントばりのオーバーリアクションを見せた。
「何や、お前等か。ナンパか?」
「ちゃうちゃう。黄昏てただけや。ていうか、もっと笑顔で渡せって」
「3人でやる予定やってんけど、ドタキャンや! ルール違反する奴ほんま殺す!」
「いや、大阪が分からないよ。レプ……」
暴走族のリーダーに対して全く態度が変わらないレプ。そんな彼はいつもの事だが凄く男前だ。ルックスももちろんカッコ良いんだけど、頼れる男というか、信用出来る男である。
「1人じゃ無理やろ? 手伝ったるわ。お前等、かまへんやろ?」
レプが僕と江戸やんに同意を求めてきた。やる事もないし、単純に4人でやった方が早く終わるに決まっている。
「かまへんで。暇やしさ」
「マジか! めっちゃ助かるわ。バイト代は出せんけど、後で飯奢るわ!」
申し訳なさそうに、彼は何度も僕等に頭を下げ、顔をクシャクシャにして笑っていた。真っ白のトレーナーの胸元に、赤いドクロのワッペン、彼の所属するチームのキャラだろうか? 妙に目立つそれがカッコ良かった。髪型も別にそれっぽい人たちな感じではなく、少し茶色で、センターに分かれた今時のものだ。目つきは鋭く、将来、そういう道に進むんだろうなと思わせる顔つきだ。