暴走族のリーダー
僕等の通う学校は、大阪でも田舎のエリアにある。最寄り駅は徒歩だと30分強。なんとも不便で、辺鄙な所だ。8時20分には予鈴のチャイムが鳴り、それまでに正門をくぐらなければ、生活指導の先生に門を閉められてしまう。自転車通学や、バス通学、徒歩通学で、8時台は危険なほど正門前はごった返している。僕はそういった渋滞を逃れる為、近くのマンションの駐輪場に自分の自転車を止めて、プールのある裏門の高い青のフェンスをよじ登り、しれっと教室に入っていた。相当高いフェンスだが、運動神経には自信があったから、余裕で飛び越えられた。ルール違反を嫌う男だが、アウトかセーフかまたレプに判断してもらおう──。
プール裏での喫煙以降、僕等3人は常に一緒にいる。授業中は各席で寝ているが、休み時間、昼休み、放課後、その後もずっと一緒だ。今日も、大阪でも3番目ぐらいに賑わっている繁華街に繰り出していた。思いっきり制服のままで。僕等は、駅に向かう歩道橋の上で堂々とタバコをふかしていた。四方八方、ビルに囲まれたこの場所が何故か落ち着くのだ。
「江戸やん、どう? そこそこ都会やろ?」
「うん。大阪も都会だからね。結構可愛い娘多くね?」
歩道橋の下、四車線の国道を行く車のテールランプを眺めながら彼女を思っていた。
「江戸やん、違う女に目がいくようになったんやな。おめっとさん」
「いやいや、そうじゃなくて」
僕は、まだ他の女に興味を持てないでいた。こんなところにいるはずもないのに、彼女に似た後ろ姿を見つける度、切なくて死にそうになっていた。
「おいおい! お前等、あそこ見ろ?」
「どこや?」
レプが指差す方を見た。西側に降りる階段の下、見覚えのある男がいた。真っ白のトレーナーに、黒のズボン、おそらく学生服のズボンだろう。
「同じクラスの『李』じゃね?」
「そうや! 何やってんや?」
レプが歩道橋の手すりから乗り出して彼を見ていた。彼の横にダンボール箱が山積みに置かれている。その高さは、軽く彼の身長を越えていた。彼はダンボールから何かを取り出して、行き交う人々に配っていた。
「テイッシュ配りのバイトちゃうか?」
「あのダンボール、全部そうじゃね?」