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「……。ドンピシャやな」
「マジか。俺の勘は当たるんや」
世の中広いようで狭い──こんな話しになるとは夢にも思わなかった。久々にその名前を聞いて、彼女と上手くいっていた時の甘い香りが頭の中を吹き抜けた。初めて彼女と深い中になった帰り道に、金木犀の香りが漂っていた。僕は、彼女に『この香りすきやねん』と言ったら、『トイレの芳香剤の香りやん』と一蹴された。鮮明にとまではいかないが、あの頃の事が蘇った。
「でも、新しい出会いを求めてるって事で、ほっとした部分もあるわ」
「……」
「自慢する訳じゃないけど、街歩いてても、みんな振り返るほどの女やったな」
「……」
「結構きつい娘やったから、その先輩もこっ酷く振られたかもしらんな」
「……いや、そうじゃなくてな」
「何が?」
「騙して連れて行ったらしいわ。女同士で遊んでるところに、偶然を装って合流みたいな」
「えっ?」
「何か、誘っても速攻で断られてたみたいやわ。好きな人おるからって」
頭が真っ白になった。好きな人とは、普通に考えれば僕の事になる。スポーツカーの男も身内だと判明した訳だし。でも、今さらそんな事を聞かされてもどうする事も出来ないが、得体の知れたこのざわめきが、忘れかけていた感触とリンクした。
「……。終わった話しやな」
「悪い。掻き乱すつもりは一切ないけど、お前の苦しんでた姿を見てたからな」
その言葉が凄く染みた。ぶっきらぼうの彼が、自分に対してそんな風に思ってくれていた事、ちゃんと見ていてくれていた事に感動した。やはり、暴走族のリーダーは伊達じゃない。
「それと、俺の身内に同じ苗字の人がおってな」
「うん」
「一概には言えないが、そういう事なんかなって」
「どういう意味?」
「お前に理解させるのが一番難しいわ。レプやら江戸やんとは違うから」
「話しなら理解できるよ」
「いや、そういう事じゃなくて。お前がもっとも嫌う事やから」
「ごめん。やっぱり意味が分からん」
「……。お前、俺が日本人じゃない事をどう思う?」
「どうも思わない。リーくんは親友で、大切な仲間や」
「そういうところがみんなを引き寄せるんや。お前は。俺よりもよっぽどリーダーにふさわしい男や」
リーくんの言いたい事が今ひとつ分からなかったし、それ以上の事をリーくんも話さなかった。どこか煮え切らない気持ちのまま、お寿司と焼肉をご馳走になり、僕はリーくんの家を出た。