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リーくんの部屋は、想像していた通りだった。車関連のもので溢れていて、灰皿とベッドがあるだけ。音楽を聴いたり、ゲームをしたり、一般的にあるだろうものが一切なかった。そんな無骨な彼を、僕は尊敬していた。仲間になった時から、彼の圧倒的な存在感に憧れていた。何故なら、その全てを僕は持っていなかったから。とにかく、暴走族であろうと何であろうと、その組織の頭になるという事は、ある種のカリスマ性がないと務まらないと勝手に思っている。僕には、どう転んでもそんな風にはなれないだろうとも──。
「……言うべきか悩んだんやが、俺なら言って欲しいと思ってな」
「ん? 何か話しあるって言ってた事?」
「そうや。間違いかもしらんしな」
リーくんは、タバコの煙が目に入ったみたいで、削れるほど目を擦りながら言った。
「何の事?」
「お前の前の彼女の事や」
「前の?」
居酒屋ではリーチから聞かされ、今度は全く関連性がないであろうリーくんから、前の彼女の話しが出るとは思ってもみなかった。
話しによると、リーくんの中学の連れが僕の元彼女と同じ女子高で、その連れに合コンを頼んだ先輩がいたみたいで。ちょっとややこしい話しではあるが、簡単に言うとその先輩は、僕の元彼女らしき娘に振られたという話しだ。
「先輩、かなり男前で振られた事なかったみたいやから、相当落ち込んでたらしくてな」
僕は思った──振ろうと振られてようと、そういう場にのこのこと足運んでいる時点で駄目だろうと。自分の事は棚に上げてだが、何が『9月にやり直そう』だと思った。向こうも、向こうでよろしくやっているんじゃないかと。その先輩とやらが、単にタイプではなかったという話しだろう。
「で、その娘が前の彼女って何で思ったん?」
「いや、連れがいうには、相当別嬪やて言ってたしな」
「それだけ? 別嬪やったら沢山いてるやろう。その学校にも」
「何かピンと来たんや。俺の勘は結構当たるしな」
「ない話しではないけど……」
「ほんで、名前聞いたんや」
「それは確実やな。ほんで、何て名前?」
「……忘れた」
「忘れたんかいっ!」
「いや、ちょっと待って。思い出すから」
リーくんは、頭を掻き毟っていた。どうやら本当に忘れたようだ。リーくんが思い出しているこの時間が、無駄にドキドキさせた。仮に元彼女であっても、どうなるもんでもないのに──。
「思い出したっ! かっ金子麗やっ!」