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リーくんは、永遠に続きそうなオモニのトークを強制終了させて部屋に案内してくれた。8畳の洋室の壁には、国産、外国産の車のポスターが所狭しと貼られていた。一応、申し訳なさそうに勉強机が隅の方にあったが、漫画の本棚と化していた。
「その辺適当に座れや」
「うん」
丸いテーブルの上には、殴られたら確実に死ぬであろうカクカクしたガラスの灰皿が置かれていた。
「吸いたかったら吸えよ。禁煙ちゃうしな」
この大灰皿がテーブルに鎮座している時点で、禁煙ではないのは誰の目にも明らかだ。僕はポケットからタバコを取り出して火を付けた。
「たまたま安奈から電話あって聞いたぞ。付き合ったらしいな」
「なんとか。付き合えたわ」
「あいつ、めっちゃ可愛いな。同じクラスなった時に思った」
自分の彼女を褒められるほど嬉しい事はない。
リーくんは紫の長Tシャツをめくり上げて、黒いベッドに腰掛けた。
「安奈とはたまに連絡あるん?」
「昔はな。同じ族の仲間やったし。今はそんなにないかな。江戸やんに誤解されても困るし」
「確かにな。リーくんは、あの歳下の娘とは上手く行ってるん?」
「この間、やったよ」
「マジで? めっちゃ羨ましい」
「向こう、初めてやったわ。俺も初めてって言うといた」
「大嘘つき野郎かっ! バレバレやろ」
「めっちゃ白けた目で見られたわ」
話しによると、意外にリーくんは遊んでいなかった。族の頭だったのも関係しているのか分からないが、今まで付き合ったのは2人だけらしい。
「お前は何人目?」
「4人目かな。彩乃も前の彼氏が大学生らしいし」
「大学生か。嫌なワードやな。めっちゃ嫌やわ」
「分かる? もうほんまぶん殴りたいわ。そいつの事」
「近ちゃん喧嘩するんか?」
「いや、リーくんにしばいてもらう」
「俺がしばくんかいっ! お前ほんまおもろいな」
リーくんは腹を抱えて笑っていた。そんな彼も高校を卒業したら、親父さんの会社に就職するらしい。建築関係らしいが、彼ならどんな仕事でもやれそうだ。僕も雇ってと言おうとしたが、力仕事は務まらない気がしたから飲み込みこんだ。