リーくんと遊ぼう
夏休みに入る前、リーくんの家に遊びに行く約束をしていた。今日がその日で、夕方に彼の家へ向かった。1度行った事があったから、迷う事はなかった。何やら話しがあるという事だったが──。
リーくんの家は、周りの家よりもひと回りほど大きく、3階建ての1階部分は、会社の事務所のようになっていた。入り口には黒色で金縁の大きな看板が掛けられている。『未来土木』と書かれていて、その横にインターホンがある。僕は、髪型と身なりを整えてそれを鳴らした。
「おっ! 来たか。とりあえず階段で3階まで上がってきてくれ」
「分かった」
1階の事務所横から、3階まで続く階段を上がった。2階は従業員が休憩したり、着替えたりするスペースなのか、ガタイのいいおじさんが裸で何やら話しをしていた。
3階まで来た時、玄関のドアがタイミングよく開いて中からリーくんが出てきた。
「とりあえずあがれや」
「うん。リーくん、お菓子持ってきたよ。お母さんに渡して」
実は、友達の家に遊びに行く事を両親に伝えたら、もう子供ではないから菓子折でも持っていけと言われた。僕は自分のお年玉貯金を使い、地元で人気の和菓子屋でどら焼きの詰め物を買った。
「マジでかっ! オモニ、ちょっと来てくれ」
何か聴き間違えたのか、リーくんの言った言葉が聞き取れなかった。
「リーくん、何て言ったん?」
「オモニか?」
「オモニ?」
「おかんって意味や。韓国語やな」
リーくんにレクチャーを受けていたら、奥からリーくんのお母さん、つまり、オモニがこちらに来た。
「友達や。ほんでこれくれたで」
「どうも、いつもお世話になって。これ、頂いてええのん?」
リーくんのお母さんは、とてもお母さんには見えなかった。高級クラブのママのような出で立ちである。
「リーくん、お姉ちゃんいてるん?」
「えっ! 私、そんな若く見える?」
「近ちゃん、あかんて。ただのオバハンや」
「アホッ! 誰がオバハンやっ! こんな礼儀正しい友達もってありがたいと思いや。もう今日は何でも言って。寿司でも肉でも何でも注文するからね」
「寿司取ってくれ。ていうか、大事な話しがあるから勝手に部屋に入るなよ」
「どうせロクな話しやなくせに」