10ページ目
「ヤバイ。不意打ちや。こんな事ばっかりしてるやろ?」
「してないしてない。こんなトレンディな事しまっかいな」
「トレンディとか。面白いな。近本君。前の彼女の事は分かった」
「よかった」
「あの正門の大人の女性は? めっちゃ綺麗な人やったけど」
僕は最初から出来るだけ分かりやすく説明した。
「糸井君の彼女の友達か。いずれにしてもモテモテやな。近本君は」
「彩乃に好かれてるかどうかが全てやろ」
「私は愛してるから。でも、近本君も愛してるって言ってくれてびっくりした」
「なかなか言わないもんな。普通はもっとライトな感じやん?」
「そう。でも、そんな軽い感情じゃなかったから。重い?」
僕は彩乃をもう一度抱きしめた。人通りが少ないとはいえ、ゼロではない。犬の散歩をしているおじさんや、買い物帰りのおばさんが僕等をジロジロと見ながら通り過ぎて行った。近頃の若い者はとか、そんな風に思われていたんだろうが、そんな事はどうでもいい。
「一緒や。絶対に『愛してる』って言おうと思っててん。好きとかではなくて」
「ありがとう。ほんまに嬉しい。同じ事考えてたって奇跡じゃない?」
奇跡を起こした事もなければ、周りでそんな体験をしたなどと聞いた事もない。そもそも、奇跡とは何なのかも分かってはいない。分かっていないけど、これは奇跡だと思う。同じ日に告白をしようと考え、お互いがお互いの住む街まで出向く。そして、告白する時の台詞も『愛してる』と、何から何まで同じな訳で、これは紛れもなく“奇跡”だ。
「あれやな。あの時、保健室に行ってなかったらまた違ってたかもな」
「うん。あの時、すでに愛してた」
「うそっ! 早くない?」
「走って食堂に白湯を取りに行ってくれたやん? あれでやられたかな」
「マジでか。あれは必死やったからな」
「うん。鬼の形相やったよ。めっちゃ真剣やんと思って」
「色々積もる話しがあるな。今日は寝れないかも」
「ほんと。めっちゃお腹減ってきた。ヤバイぐらい」
その時、僕のお腹が大きく鳴った。
「近本君、お腹鳴ったよ。これも奇跡?」
「奇跡やな。飯食いに行くか」
「行こう! あのファミレスに」
「いいね」
その後、本当に朝まで彩乃と語り明かした。残念ながら本当に話しただけで終わった──。