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僕は涙と鼻水を顔を洗うように両手のひらで拭った。視界がぼやけるほどの涙で彩乃が見えなかったから。
「……今日は彩乃に会いたくて。いや、ずっと会いたかったんだけど」
鮮明に彩乃が見えるようになってきた。目の前にいる彩乃は少し震えているように見えた。おそらく、相当な勇気を振り絞って告白してくれたんだろうと感じた。安奈から、必ずこちらから言うようにと約束したが、その約束は果たす事は出来なかった。出来なかったが、僕も同じ気持ちである事、いやそれ以上かもしれないこの想いを彩乃に告げた。
「愛してるよ。好きとかそんな軽い気持ちではないねん。ずっと一緒にいて欲しい」
駅近のコンビニの駐輪場──当たり前だが、人通りは結構ある。何人もの人がすれ違いざまにこちらを凝視していたが、そんな事を気にしている場合ではない。普段なら気にしていたかもしれないが、それどころではない。僕は沈黙の中、彩乃の口元をずっと見ていた。
「……。よっよかった! ほんまによかった」
彩乃は両手で顔を隠して、しゃがみこんでしまった。小刻みに震えている。僕は彼女に近づき、背中をさすった。
「ごめんな。告白させてしまった」
僕は彩乃が落ち着くまで背中をさすった。ブラジャーの線に触れないように気をつけてさすった。少し触れてみたい気持ちになったが、とりあえず泣き止むのをじっと待った。
「……。あっありがとう。もうめっちゃドキドキして……」
彩乃は顔を上げて立ち上がろうとしたが、足が痺れたのか、よろけて転げそうなっていた。僕はすかさず、彼女の脇を掴んで支えた。
「ありがとう。足が痺れたみたい」
僕はどちらかというと、“S”である。いや、真性の“S”かもしれない。痺れている場所を探すように、彼女の足に触れた。
「キャッ! ダメダメ! そこめっちゃ痺れてるねん!」
僕は少し強めにその部分を触った。
「まだ返事もらってない! 付き合ってくれるか?」
「うんうんっ! 付き合うから離して!」
その言葉を聞いて、僕は痺れていた右足首付近から手を離した。彼女は笑いながら、僕の胸を叩いていた。