7ページ目
僕は彼女の強い口調に尻込みしてしまった──安奈にこちらから告白するように言われていたし、僕自身もそこは必ず守らないといけないと思っていたが、何処かで彼女からの告白を待っている自分がそうさせたのかもしれない。
「私、安奈とも仲良く出来るようなって、最近めっちゃ学校も楽しくてね。全部近本君のおかげやなって」
「……」
「身体の調子も結構いいねん。ストレスが減ったからやと思う」
「……。よかった。それはほんまによかった」
何故だか分からないが勝手に涙が出た。悲しくもないのに自然に溢れてきた。僕は咄嗟に下を向いた。恥ずかしくて、彩乃の顔を見ていられなかったから──。
「近本君、前の彼女の事、この間の正門で見かけた女の人、もの凄く嫉妬しています。もうほんとに腹が立ってます。付き合ってもないのに……」
「……。ごっごめん」
「勝手に怒ってごめんなさい」
「いやいや、ごめんなさい」
「この間、何食わぬ顔してコンビニに来た近本君にも腹が立って仕方なかった。本当に腹が立ちました」
「……」
「でも、すぐに嬉しくなって。私に会いに来てくれた事が……」
「……うっうん」
「だから思ってん。私は近本君を本当に愛しているんだなって」
彩乃の言葉が、僕の抱えていた闇の部分を吹き飛ばしてくれた気がした。今までの苦しかった事、悲しかった事全部がこの日の為の布石だったのかと思うぐらい。僕は、立っていられなくなり、うずくまってしまった。顔をあげられないぐらい、声を上げて泣いてしまった。
「私は、例え前の彼女とやり直す事になっても、あの正門の人と近本君が付き合っても、それでも愛してるから。好きとかそんな柔な感情じゃないから。それだけは伝えておきたくて」
僕は、両手で両頬を殴った。いつまでも、子供みたいに泣いていられないからだ。鼻水も止まらないけど、男としてここまで相手に言わせておきながら、顔すら見る事が出来ないとかあり得ない話しだ。僕は、おそらく最低最悪の顔をしているであろう自分を彩乃にさらけ出した。真っ直ぐ彼女を見つめないとバチがあたると思ったし、僕自身も伝えたい事があってここに来た訳だから。