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「とにかくや、失恋の痛手は新しい恋で癒すしかないぞ」
レプが、成人した女性が見る分厚いファッション誌に書かれているような事を言った。流石歳上としか付き合わない男である。
「ウジウジしててもなるようにしかならんど!」
レプの口調が少し強くなったと感じた。彼は、昔から『楽しむ』という事に貪欲だった。高校生活最後の年、思いっきり楽しんで行こうと、再会した始業式で言っていた。僕だって、きっと梅野君もこの悶々とした日々から一日も早く抜け出したいと思っているはずだ。でも、そんな簡単に心の中から綺麗さっぱりと消し去れるレベルの女じゃなかったし、数々の思い出が、まだ鮮明にこの胸に刻まれていた。
「俺も出来る事なら次に進みたいと思ってるんだ。でも、近本君の話しはちょっと種類が違くない?」
「うっ梅野君……」
僕は縋るように梅野君の両手を握った。
「友達にならへんか?」
「どストレートだな。女だったら惚れてるよ。近本君」
梅野君は、僕の手を強く握り返した。一昔前のドラマっぽく感じたが、輪をかけて、レプがその上に両手を重ねてきた。
「夕日に向かって的なシーンやけど、まだ朝な。ていうか、すでにチャイムも鳴ったど」
「マジで? ルール違反やないか!」
「いや、近本君、既に喫煙と規定の制服じゃない件」
「えっ! これってルール違反?」
「マジすか……。近本君」
「ごめんな、梅野君。近ちゃんはちょっと天然やねん。ええ奴やけどな」
梅野君が、僕の話しにまだ可能性があるように感じてくれた事が嬉しかった。逆に、梅野君の話しに可能性を感じなかった僕は、なんだかとても冷酷な奴に思えて、希望を持たせる言葉一つ掛けられなかった自分が残念でならなかった。
「てかさ、今更ぞろぞろと教室に戻りにくくね?」
「そうやな。隠れ家でも行くか!」
「レプ! それはルール違反になるの?」
「なるやろ。どんな基準で生きとんねん」
梅野君が爆笑していた。肩まで伸びた長い髪をなびかせながら。身長は僕よりはるかに高く、全身からとんでもないオーラを漂わせている。僕はそんな彼にコテコテのあだ名を付けたかった。
「梅野君、君に素敵なあだ名を付けたいのだがどうだろう?」
「出た出た。近ちゃん、何か思いついたな」
「つけてくれんだ。ありがとう! てか、あだ名と初かも」
「そうか。君はあまりにも爽やかで、憎たらしいほど男前だ」
「いやいや。お前達の方が男前だろう?」
「ムカつくから、コテコテのやつにしたいと思う。ちなみに強制です」
「強制かよ。で、どんなの?」
「東京から来たという事で、『江戸やん』と名付ける」
「いいね。それ」
「いいんかいっ!」