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立て続けにタバコを2本吸った。ほぼ手に持っているだけだった。待つ事は好きではない。生粋の関西人というのもあるかもしれないが、とにかく全ての事にせっかちではある。今のこの状況もイライラして仕方がない。江戸やん、安奈の協力があってこそなのは百も承知なのだが、この性格はどうにもならない。
いや、どうにかならないものなのか──。電話を切った後、おそらく、直ぐに彩乃を呼び出してくれたに違いない。僕のポケベルが鳴らないという事は、彩乃からの連絡が安奈のところに折り返されていないという事なんだろう。当たり前の事だが。
30分が経過し、待ち望んだポケベルの音が右ポケットから聞こえた。僕は確認もせず、直ぐに江戸やんの自宅に電話をかけた。
「もしもし、近本君?」
「うん。彩乃から連絡来たんやろ?」
「うん。落ち着いて聞いてな」
「どっどうしたんっ? まさか、事故とかっ!」
「違うよ。ちょっと落ち着いて」
「ごめんごめん。取り乱したわ」
安奈の話しを汗だくになりながら聞いた。彩乃は僕の家の近くにいるらしい。何故僕の家の近くにいるのかは分からないが、安奈はそう言った。これまでの彩乃との会話で、僕の住む街の話しをした覚えがなかった。いや、したかもしれないが頭の中は謎だらけでぐちゃぐちゃになった。だが、住所等は絶対に知らないはずだ。
「とりあえず近本君がバイト先におるって言ったら、そこを動かずに待っててやて」
「分かった。でも、話しって何やろ? 怖いわ」
「怖いわって……。告白に決まってるやろ! 分かってるとは思うけど、彩乃が告白する前に何としてもそっちから言ってあげてや」
「こっ告白っ! 彩乃が?」
「間違いない。頼んだよ。近本君」
「……分かった」
静かに受話器を置いた。また100円は返ってこなかった。両替する時間は腐るほどあったのに。いや、そんな事はどうでもいい。本当にどうでもいい事だ。僕は左手を胸に当てた。ドクンドクンと今にも飛び出してきそうなぐらいだった。
彩乃が、僕に告白しようとしてくれていた──性格的にそんな事が出来る子ではない。友達に言いたい事も言えずに、身体を悪くしてしまうような女の子だ。それが、告白という人生でも最上位にくるほどの冒険を、彩乃はしようとしてくれていたのだ。安奈の言った通り、間違っても彼女に告白させてはいけない。どんな事があっても、僕が彼女より先に『愛してる』と伝えなければいけない。