表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平成初期型!!  作者: 稲田心楽
106/121

3ページ目

 

 外の蒸し暑さが嘘みたいな店内──僕はレジの最後尾に並んだ。ここにはいない彩乃の事を目を閉じて想像してみた。レジを打つ彩乃、さっき開けた冷蔵庫に飲み物を補充している彩乃、コピー機のインクを替えている彩乃、トイレの中に貼られている清掃点検表に自分の名前の印鑑を押す彩乃、あくまでも想像だが、鮮明に僕の心に浮かんだ。



「すいません。どうぞ」


「ごっごめんなさい」



 妄想の世界にどっぷり浸かり過ぎていて、前の2人のお会計が済んでいる事に気づかなかった。僕はレジ袋を受け取り外に出た。深すぎる妄想のせいで、バイトの人に、彩乃のシフトを聞く事を忘れてしまった。



 タバコの灰皿の横に公衆電話がある。僕は、江戸やんのポケベルを鳴らして、しばらく待っていた。タバコを一本吸い終わったぐらいに右ポケットが震えた。おそらく江戸やんだろう。僕は、黒色のポケベルを取り出して確認した。ディスプレイには、江戸やんの自宅の電話番号が表記されていた。僕は、公衆電話から江戸やんの自宅に電話を入れた。



「近ちゃん? 今何処?」


「江戸やん、今彩乃のバイト先前にある公衆電話」


「マジか……。ちょっちょっと電話代わるから」


「もしもし、近本君?」



 代わった相手は安奈だった。



「今日告白するって言ってたから、待機しててん」


「マジでか。ありがとう。バイト入ってなかってん」


「近本君が、今日告白する事を彩乃には言えないからさ」


「うん」


「連絡係ぐらいしか出来ないけど」



 江戸やんと話し合って、僕が会えなかった場合にポケベルで連絡を取れるように待機してくれていたようだ。江戸やんは僕の性格をよく理解してくれている。今日、告白する事を信じていないと出来ない事だ。連絡が取れない事を想定して、力を貸してくれる仲間がいる事の幸福。僕も必ず彼らのピンチに駆けつけようと心に誓った。



「安奈、ありがとうな」


「いいねん。とりあえず、彩乃を呼び出すから」


「ありがとう」



 僕は燻んだ緑色の受話器を置いた。投入した100円は返ってこないが、お金では買えないものをもらった気がした。とりあえず、安奈からの連絡を待つしかない。バイトではないという事は自宅なのか、それとも誰か別の友達と遊びに行っているのか、あるいは、いや、考えるのはやめよう。必ず、今日会えるはずだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ